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◆水に映りし夢を見る(4)

無事戦いは勝利に終わり、アルディンは敵将の首を取って大手柄を立てることが出来た。
しかし、事態は思わぬ方向へ転がっていった。
第五軍は予想通り、アルディンがトップについた。第二軍は第五軍に大きな貸しを作れたと言っていい。
……が、新たに第五軍の副将軍となったシードが予想以上の手腕を持った人物だったのだ。

「あの野郎、ことごとく俺とアルディンの邪魔をしやがる」

ニルオスは不機嫌だ。邪魔されようが徹底的な手腕を持って排除するニルオスにしては珍しいとサフィンが思っていると、フェルナンが面白そうに笑っている。何やら知っているらしい。

「シード副将軍はニルオスと似たタイプでね、要するに知将なんだ。ニルオスと違って後方支援以外には実績がないが、広い視野を持って軍を動かす力がある。元々後方支援は補給や救護、撤退時は最後尾を支援し、戦場脱出の経路確保などを行う。要するに事細かく全体のことを知っておかないとできないから、元々知識はあるわけだ。そこに実際に軍全体を動かす権力を得たわけだから、彼は軍の補佐としては最高の人材だよ。第五軍は先の戦いでボロボロになったけれど、驚くほどのスピードで立て直されている」
「へえ…」
「元々文官向きなのかも知れないね。よき人材をよき配置につけ、必要物資の補充や人事異動の指示も驚くほどの早さで行われていると聞く。後方支援の将軍なんてと陰口を叩いていた者達も第五軍の隊長クラスが全員シード副将軍を慕っているから、陰口をたたく以外何もできないらしい。シード副将軍だけなら若干弱かったかもしれないが、大貴族出身で大きなカリスマのあるアルディンと組んだわけだから、良い軍を作り上げるんじゃないかな。実際、良い軍になると思う。とにかく団結力が凄いんだ。彼の部下の」

おかげでニルオスがね、とフェルナンは笑う。

「どうも彼はニルオスとアルディンの関係を嗅ぎ付けたらしくて、牽制されたらしい。ただそれだけならニルオスも無視しただろうけど、うちの補給関係の情報を握られちゃったらしくてねえ……前回の戦いでちょっと無茶したんだよね。まぁ大した不正じゃないんだけど、表だって言われちゃやばいことに変わりはない。しばらくはニルオスも大人しくしておくんじゃないかな。第五軍は発足したばかりだし、アルディンも多忙だろうから」
「それはすごいな」

何よりニルオスを脅せるってところが、とサフィン。

「最初、ニルオスもそのシード副将軍を排除しようと思ったんだよ。けどそのシード副将軍自身にも彼を守ろうとする部下がいてね。しかも熱狂的な信者みたいな部下とくる。第五軍の大隊長たちはほぼ全員がシード将軍を好いているようでね、さすがに分が悪いとニルオスも諦めたようだよ。ニルオスが第五軍に行くたびに大隊長たちに睨まれるってぼやいてた」
「どういう連中なんだ…」

熱狂的信者みたいな部下とは聞いたこともない。しかもニルオスが手出しを諦めるほどとはどういう連中なのか。思わず呆れるサフィンにフェルナンは笑った。

「一度シード副将軍に会ったら判る。絶対誰か一人はくっついてるから。そうだね、しっぽを振りまくる犬みたいな部下達だよ」

可愛いのか可愛くないのか、判断に迷う表現だとサフィンは思った。ただの犬なら可愛いだろうが、自分と同じ大隊長位にある騎士たちがそうなのなら、かなり微妙だろう。見てみたいような見てみたくないような複雑な気持ちだ。

「まぁサフィンならそのうち会う機会もあるんじゃないかい?アルディン将軍と妙な縁があるんだろう?」
「そういう縁はごめんだ。会わなくていい。会いたくない」

オプションで、もれなくやっかい事がついてくる縁だ。冗談じゃない。

「さぁて、そろそろ中央会議室へ行くか、サフィン。その第五軍と人事異動の件で話し合いだ」
「俺がか!?」
「そうだよ、サフィン。あちらさんの欲しがってる人材がお前の隊に多い。参加した方がいい」

会いたくないと思っていた矢先に会わねばならないらしい。
やっぱりアルディン将軍が関わったら不運だとため息を吐くサフィンであった。

<END>

少々蛇足チックな話ですが、第二軍視点を書いてみたいなと思ってかいた話です。
同じ事件とか物語を別視点で書くことが好きなのかもしれません。
ニルオスは完全な知将であり、最前線で戦う能力はないため、グリークやフェルナンのような白兵戦に強い側近が必要です。
アルディンは育ちがよすぎて、腹黒いことに対応できない面があり、その辺りをシードが補っていきます。
完璧な人間っていうのがちょっと苦手でして、エリートのトップである近衛将軍たちにも苦手な面があるんだよというお話です(違う)