文字サイズ

◆ある痴漢退治の話


スティールの中隊は、コーザ大隊麾下である。
コーザ大隊による会議が行われたその日、会議終了間際にスティールは名を呼ばれた。

「スティール中隊、仕事だ」
「は、はいっ」
「お待ち下さい!前回もスティール中隊が依頼を受けたではありませんか!連続というのは何故でしょうか!?」

同じ大隊に所属するパウル中隊長からの指摘を受け、コーザはため息を吐いた。

「むろん判っている。今回は向き不向きってヤツだ」
「理由はなんでしょうか。我が隊は向いていないと?」
「仕事内容が痴漢退治だからだ」
「ち、痴漢退治……」
「男も狙ってくる痴漢だ。恐らく囮を複数人出して捕らえることになるだろう。スティール中隊は顔がいい連中が多いからな、向いているだろう」

パウルは二十代半ばの中隊長だ。短く刈り込んだ茶色の髪をした明るい性格の男で体格がよい。好感が持てるタイプだが、男らしく頼もしい外見であり、間違っても痴漢に狙われる要素はない。

「お前の中隊はパワー型だ。痴漢の囮に向いた男はいないだろ?」
「そ、そうですね。……失礼した、スティール中隊長。痴漢退治はそなたらの方が向いているだろう。しっかり頑張ってくれ。応援している」
「は、はい」

激励されているのだろう。しかし、痴漢退治に向いた隊などと言われて嬉しいはずがない。
思わず顔を引きつらせるスティールであった。