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◆銀のミーディア(2)

一週間ほど滞在した患者が帰っていった後、手のひらサイズの緑色の小竜は、老いた使い手の肩の上で、15歳の若い薬師を見ていた。
印を手に入れたばかりの若い薬師は、使い手の孫だ。
孫は男の子が二人だ。どちらも十代半ばで若いが小竜が見たところ、なかなか優秀だ。
特に印を手に入れたばかりの下の子は優秀だと小竜は思う。

「それはやめろと言ってるだろーが、ロディール!」
「うるさい。往生際が悪いぞ」
「ぎゃあああああ!!」

二日酔いの酔っぱらい患者と孫の会話だ。
印を手に入れたばかりの孫が最初に覚えたのは『毒障浄化』であった。文字通り、体を害するものを排除する技だ。田舎ではもっぱらアルコールを抜くための二日酔い対策に使われている。
使用頻度が高いため、孫の腕は上がる一方だ。

「ちくしょー!金は払わねーからな」
「かまわん。アンタの嫁さんに貰いにいくだけだ」
「そ、それだけは勘弁してくれ!!かぁちゃんに追い出されちまう!」

しっかり治療費を受け取った孫は、呆れ顔で患者に薬を差しだしている。

「胃が荒れていたからな、一応飲んでおけ」
「苦くねえだろうな?」
「甘い薬なんかあるか」

その様子を見つつ、使い手は緑竜の名を呼んだ。

「ロス」
「あぁ」
「どうだ?」
「見事だな。最初からあれほどスムーズに印を操る者はまずいない。あれは天賦の才だろう。己の才に傲ることなく、コツコツと腕を磨けば相当な癒し手になれるだろう」
「そうか」

小竜と同じく無口な性格の使い手は、嬉しげに笑み、小竜の頭を撫でた。

「ところであの寄生虫だが…」
「あぁ、厄介だったな」

小さすぎる、と小竜。

「巣くった方は負の気で殺して溶かし、毒障浄化で体内からはき出した方がいい。だが卵はそうはいかない。小さすぎて探すのが困難だ。薬を使うしかない」
「うむ……だが薬がここでは手に入らぬ。今回は足りたが、次に同じ症状の患者が来たら助けられない……」
「あの薬は東の大陸で手に入る。この大陸で手に入れるとしたら貿易に頼るしかないだろうな。ギランガに行くしかないだろう」
「うむ……」

いずれにせよ、使い手はもう長旅をする気がない。老いた体に負担が大きいからだ。
行く機会があるとすれば、息子や孫だろう。
使い手は紙に薬について書き付けながら、口を開いた。
零れ出てきたのは、幼い頃から歌い続けてきた『聖ガルヴァナ神』を讃える歌だ。

「慈愛深き微笑みの…」