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◆親友と恋人と(4)

スティールにしっかり者で生真面目の優等生と思われているラーディンは実のところ、複数のコンプレックスを抱えていた。

(俺、全部中途半端だよな…)

剣技はカイザードに劣り、印は複数印持ちのスティールに劣る。
容姿はカイザードの方がずっと上で、性格は生真面目すぎて融通が利かない性格のように思える。
考えれば考えるほど自分が何もかも中途半端な人間のように思えて、ラーディンは自分が嫌でしょうがなかった。
そしてそう思えば思うほど自分がスティールに相応しくない人間のように思えた。何しろスティールにはあのカイザードがいるのだ。自分など必要ないように思えてくる。それでなくとも相方は普通一人なのだ。それが普通なのだから、いくらスティールが複数印持ちでも自分は必要ないような気がするのだ。
迷いに迷った。それでも好きな相手だったから、誘惑に勝てず、誘いをかけた。

(俺、どうだった?そりゃカイザード先輩ほどじゃなかったかもしれないけど、よかったか?)

気になって仕方がなかった。


スティールは目を丸くしていた。

「何それ。比べるようなことじゃないと思うけど」
「けど俺……」
「ラーディン、カイザード先輩にライバル意識でも持ってるの?そりゃ俺、先輩優先したように見えるかもしれないけど、意識してそうしたつもりはないから。ちゃんと公平に扱いたいと思うから気になることがあったら遠慮なく言ってよ。俺が鈍いのラーディンが一番よく知ってるだろ。いつも一緒にいるんだし」

いつも一緒。
何気なく呟かれた言葉にラーディンはハッとして顔を上げた。

「先輩とは学年も違うし、放課後とか休みの日ぐらいしか一緒にいてやれないからさ」

つい優先してしまったのかも、とスティールは反省している様子を見せた。

「俺…スティールの役に立ってるか?」

スティールは再び目を丸くした。
「役に立つとか立たないとかおかしくないかなぁ?友達ってそういうもんじゃないじゃん。けど俺はいつもラーディンに助けられてるなぁって思ってるよ。俺もラーディンの役に立ててることがあればいいけど」
「別にスティールは俺の役に立たなくても…」

いいかけてハッとする。スティールの言うとおりだ。友達というのは役に立つ立たないでくくられるものではない。
スティールは笑い出した。

「だろ?役に立つとか立たないとかじゃないだろ?俺はラーディンが好きだよ。ずっと一緒にいたいと思ってる。それじゃ駄目かな?」
「いいや、大歓迎だ」

胸の奥につかえていたものがスッと消えたような気がした。
やはりスティールは凄いと思う。いつもちゃんと物事の本質を捕らえていて、穏やかな言葉ながらもはっきりと真実を伝えてくれる。おかげで彼の側にいると心地よい。いつも無意識のうちに彼の言葉に助けられているのだ。

「なぁスティール」
「ん?」
「好きだ」

ただ言いたくて告げるとスティールは嬉しそうに笑った。

「そっか。俺もだよ、ラーディン」

この友とこの道を歩んでいこうと思う。
これからも悩んだりくじけそうになったりするかもしれない。何しろ普通じゃない複数印持ちの友が相手で、優れた先輩が友の相手にいたりする。
けれどもこの友が好きだ。一緒にいたい。そう思うから乗り越えられる気がする。

「好きだ、スティール」
「なんだい、さっきから?」

ヘンなヤツ、と笑われる。
その笑顔が心地よくてラーディンは友を背もたれにするように座り込んだ。
背中越しのその体温が心地よかった。


<END>


基本的にスティール視点で書くことが多いのですが、ラーディン視点の話を書いてみたくて書きました。
ラーディンの心の中を書いてみたかったのです。
しかし、見回してみると、他のサイト様のやおい系は受視点の話が多いんですね。……私が少数派なのかーと思ってしまいました。
サクッと書けた話でした。書きやすかったです。…ええ、殆どエロですし…ストーリー無いに等しいです。はい…。