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◆親友と恋人と

秋休暇も終わり、冬の寒さが厳しく感じられるようになった頃。
ラーディン、カイザードの二人と何度目かの共同練習を終え、スティールはなんだか力がアンバランスだなぁと思った。
剣技に優れたカイザードは炎の扱いも上級印持ちだけあり、優れている。
一方の相手ラーディンは土の使い手だけあり、防御には長けているが、攻撃はさほどでもない。印もまだ扱い慣れていないという感じだ。ちゃんと引き出せていない。
学年差もあるかもしれない。しかしそれ以上に二人の実力差が感じられた。

一方のスティールは火と緑はそれなりに慣れてきた。武術は相変わらずだが、印の方は武術よりは向いているらしい。ただ、水と土はまだまだだ。

「ヤってないからだろ」

スティールが心の中で考えていたことを小竜はずばりと言ってのけた。
「お前は元々緑が一番強いからな。まぁそういう血筋に生まれたからというのもあるだろう。だから他の火と土と水は相手とヤって気の交流をして慣らすのが一番いい」
事実、火の方はカイザードと体を重ねた後、扱いやすくなった。小竜の言うことは実感している。
小竜も伊達に七竜の一つと言われているわけではないらしい。竜の素性は謎だらけだが…。

「けど…ラーディンだよ?」

親友。はっきりいってそういう対象に見たことがない。気まずい。

「ともかく今のままじゃ駄目だろうが。複数印を持つお前は他が苦手でもかまわないかもしれないが、相手は地の力を使えねーことには話にならねーんだぞ」

ラーディンの力は土。逆に言えば、土の力しか持たない。

「ちゃんと考えろ」
「うん…」



ラーディンは短めの黒髪にやや濃いめの碧眼を持つ同級生である。
ずば抜けた美形というわけではない。どちらかと言えば精悍な部類だろう。さっぱりした容姿は好感がもてる。街に出れば女性から好意を持って視線を向けられている。
ラーディンはクラスメートの中でも長身の方だ。成長期なのでまだ伸びるだろう。
面倒見がよく、さっぱりした性格なのでクラスメートにも好かれている。
成績も良く、武芸の腕もいい。誰にでも好かれているよき優等生。それがラーディンであった。

マイペースで呑気なスティールが悩んでいるということはしっかり者の相手はもっと悩んでいるのだということに気づいたのはその翌日のことだった。
授業を終え、帰宅しようとしたスティールはラーディンに呼び止められた。

「なー…今日、お前の部屋行っていいか?」
「うん、いいよ」

カイザードとの約束もなかったので気楽に答えるとラーディンは言いづらそうな様子で口を開いた。

「お前さ、カイザード先輩と…ヤったことあるだろ?」
「え?うん」

いきなり問われたことには驚いたが、気づかれていてもおかしくはないと思っていた。それに運命の相手なので別段おかしいことでもない。隠すことでもないだろうと思い、答えるとラーディンはますます表情を強張らせた。

「…なんで、俺とはヤらねえの?」
「え?」

理由を考えたこともなかったスティールは戸惑った。

「別に理由があるわけじゃないんだけど…」

強いて言えば親友なので手を出しづらかったというぐらいか。

「じゃ、ヤろーぜ」

あっさり言われて驚く。しかし相手も照れくさいのか目尻を赤らめて顔をそむけての台詞だった。

「いいけど…俺、抱く側しかできないよ?」

念のために告げておくと、ラーディンは少し驚いたようだった。しかし止める理由にはならなかったらしい。判ったと頷く。

「ちゃんと風呂入ってくるし……逃げるなよ」
「うん」

何で逃げると思われてるんだろと思いつつスティールは頷いた。ラーディンはやや安堵した表情を見せ、走るように帰っていった。


ラーディンの家は王都にある商家である。兄弟は四人。ラーディンは三番目である。
兄と姉、そして弟がいる。男兄弟は全員が士官学校を受けたが受かったのはラーディンだけだった。
幼い頃から家の手伝いをして育ったラーディンは大人に慣れている。そしてにぎやかなのが好きだ。ラーディンがしっかり者で世話焼きなのはそんな環境に影響を受けていると言える。
大家族なので広い浴室でしっかり体を洗い、少し躊躇いつつも体の奥も洗った。大人に囲まれて育ったラーディンは性的な知識も一通り備わっていた。
友人スティールは気づいていないようだが、ラーディンはしっかりスティールが好きだった。体を重ねるのになんら躊躇いはない。カイザードという派手な美形の先輩と友を共有せねばならないのは若干残念だが、運命の相手が好きな相手というのはラーディンにとって幸運だった。

「ラーディン、どこか行くの?」
「寮に行ってくる。スティールんとこ。今日はたぶん泊まり」
「あらまぁ…」
「しっかりやれよっ」
「頑張ってね」

スティールが運命の相手であることを家族は知っている。泊まりということで理由も悟ったのだろう。家族は囃し立てるようにラーディンを見送った。さすがに少々恥ずかしい。

「ったく…」

邪魔されるわけではないので、構わないといえば構わないが、知られまくっているのは良いことは悪いことかさすがのラーディンにも判らなかった。