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◆三人目(4)

試験に合格してもすぐ入団できるわけではない。一ヶ月ほどの見習い期間を得た後、正式配属になるのだ。
無事合格したスティール達も見習いとなった。配属先は第一軍だ。最初から希望した軍に入れそうだとスティール達は喜んだ。
再会は思わぬ形でやってきた。第一軍で軍団長会議が行われたが、そこで印が反応したのだ。

「!!??」
「いたぞ」

小手から小竜の姿となって飛び出したドゥルーガがその相手の騎士の腕に飛び乗る。

「スティール。こいつがお前の三人目の相手だ」


亜麻色の髪は綺麗に整えられ、水色の瞳は柔らかく、しかし騎士らしい強い意志を感じさせる。服は見苦しくない程度に着崩して着ているが、それがセンスの良さを感じさせる。
その文句なしの美貌の主は第二軍ニルオス将軍の両翼の一人。銀翼のフェルナンと名を知られている。

「………本当か?」

さすがに信じられず、呆然と問いただすと相手も突然のことに驚いている様子だった。他の将軍も居合わせていて、二人の行動を注視している。一つはドゥルーガが小竜になって動き喋っているからだろう。この小竜はスティールと二人きり以外のところでは小手の姿を徹底しており、しゃべりも動きもしなかったのだ。

「印を使え」

小竜は注目されていることにも構わず冷静だった。
スティールは騎士服をまくって腕を出した。水の上級印を相手の腕に近づけていくと相手の印が騎士服の上からも明らかに輝きを放ちだした。

「間違いないな」

小竜は満足げだ。しかし、間違いであった方がよかった、とスティールは心から叫びたくなった。第二軍でトップ2の人物。あまりに雲の上すぎるだろう。

「……まいったな。いきなりのことでなんと言ったらいいのか判らない」

スティールの心を代弁したかのように相手の人物が呟く。軽く髪を掻き上げる仕草すらさまになるその人物はスティールを見下ろすとニコリと笑んだ。

「まずは初めまして。私はフェルナン・ガ・ラート。第二軍副軍団長だ。詳しい話は後にしようか。今から会議なのでね。後で時間ができたら私が君に使いを差し向けるからそれまで待っていてくれ」
「はい」
「では、また」

スティールは去っていく姿を呆然と見送った。


その日の夕刻、スティールがラーディンに告げるとラーディンも驚いたらしかった。

「…それってやばくないか?」
「やばいだろ。さすがに俺もびっくりした」
「いやそういう意味じゃなくて、いやそういう意味もだけど…第二軍の人だろ。俺たちはまだ第一軍で決定してないから引き抜かれる可能性があるんじゃないか?」
「あ……。けど俺、ちゃんと第一軍で第一志望出してるけど」
「関係ないだろ。軍幹部の意向じゃ入団したばかりの新米騎士の意志なんか簡単に無視されるに決まってる。近いうち会うんなら、そのときにちゃんと意志を告げておいた方がいいぜ」
「ん…でもあの人も俺の相手なんだよな…」
「そりゃそうだが、俺たちは二人で一人前。あの人は一人でもとっくにちゃんとした実績を築いている人だ。経験が違いすぎる。同レベルにしたら失礼だ」
「それもそうか」

ついで思い出す。カイザードや目の前の親友のおかげで見目のいい人物は見慣れていたつもりだが、今日の相手は今日の相手でまたレベルが違ったなぁと思うスティールである。

「…美人だったなぁ」

思わず呟くとラーディンが顔をしかめた。次いで脇腹を肘打ちされる。機嫌を損ねたらしい。

「タイプが違うだろ?」

比べてないよと言う意味で告げたが、ますます機嫌を損ねたらしい。

「俺は美人じゃないからな」
「え?ラーディン?」

不機嫌そうに呟いて足早に去っていく親友に困惑しつつも慌てて追いかけるスティールだった。


<END>


スティール主役というより、ラーディン主役と言えそうな話。
フェルナンは運命の相手なしで近衛騎士としての地位を登っていきました。
そのエピソードが他の物語で時折出てくることになります。
結構苦労して今の地位を手に入れた人物です。