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◆炎剣の使い手

邂逅の儀の翌日。スティールは担任教師ドルスに指導室へ呼びだされた。
内容は想像がついていたので、スティールも驚くことなく部屋へ向かった。
部屋へ入るとドルスは卓上に幾つかの書類を重ねて待っていた。


「竜持ちというだけでも驚いたが…」
「……」


担任ドルスは驚くと同時に困惑しているようだった。上級印持ちである可能性は考えていたようだが、上級印でしかも複数印持ちの可能性は考えていなかったらしい。
しかし真面目なドルスは驚きつつもちゃんと仕事はしてくれたらしい。ぱらぱらと書類を束ねた紙を取り出した。
「能力の相性は印によって決まる。つまりお前は印の数だけ、運命の相手もいるというわけだ。…で、早速だが、そのうちの二人が見つかったぞ」
「…は!?」
「お前の友人と先輩だ。ずいぶん身近にいたもんだな。だがまぁこういうこともないわけではない。運命は交差するという。人生において、近い位置に生まれることも珍しくはないというからな。ラーディンとカイザードだ」
「嘘でしょう!?」
「嘘なわけあるか。会えば判る。印が反応するからな。それで見極めることができるぞ。お前にとっては運命の相手が複数になるわけだから複雑だが、ちゃんと公平に扱うことを心がけろよ。相手にとってはお前だけが相手なんだからな」
そう言われてもどうすればいいのか。そもそもラーディンはともかくカイザードはろくに喋ったこともない相手だ。しかも皆の憧れの的となっている先輩。邂逅の儀の前もあの先輩の相手になりたいと喋っていたクラスメート達の話も聞いた。それが自分の運命の相手。嘘のような話だ。
「あと、卒業後の進路だが…」
「…は?」
「驚くことはあるまい。良き印を持った者には引き抜きがあるんだ。知らなかったか?」
「いえ、噂では聞いたことが…」
自分には縁がないと思いこんでいたのだが。
「近衛五軍のいずれかを選ぶようにと総騎士団長から指示が来ている。どの軍を選ぶかはお前の意志でよいとのことだ。よかったな」
確かにいい話なのだろう。近衛軍はエリート職だ。花形と言ってもいい。リーガやディ・オンなど、今の近衛将軍には名の知られた名将も多い。
(とっとと引退して、故郷に戻ろうと思ってたのにな…)
こっそり計画していた人生計画はどうやら最初から躓いたらしい。
ため息しか出てこないスティールであった。