文字サイズ

◆青竜の使い手


ガルバドス国はウェリスタ国の西に位置する軍事大国である。
周辺の小国を次々に吸収して成長してきた新興国で、軍が絶大なる権力を誇っている。
トップに立つのは黒将軍と呼ばれる八人の将軍。黒のロングコートを羽織り、左半身にそれぞれの率いる紋章が大きく縫い取られている。
彼等は麾下に準将軍を抱え、彼等を手足として戦う。準将軍は別名青将軍とも呼ばれ、青のロングコートを羽織る。その更に下に位置するのが赤将軍だ。
レンディは二十代半ば。
黒の八将軍の一人であり、年若いながらも比類なき実績を誇る彼は別名『青竜のレンディ』と呼ばれ、七竜の一つ『青竜ディンガ』の使い手である。


呆れるほど広い屋敷の一角で悲鳴じみた嬌声が響き渡る。
一人の美しい女性を取り囲むのは複数の男たち。女性が髪を振り乱しながら乱れる様をレンディはのんびりと眺めていた。
女性が何度目かの絶頂に達して意識を失うと、相手をしていた男の一人が真っ先にレンディを振り返った。
やや乱れた堅そうな黒い髪と赤く鋭い目つきをした男は訴えるようにレンディを見つめた。

(女じゃ満足できないんだろうな…)

黒髪に赤い目のシグルドはレンディ麾下の青将軍の一人だ。個人技に優れる彼は戦場に立てば野生の獣のように大暴れし、大きな武勲を上げて帰ってくる。そんなシグルドは性格も獣のように激しく、誰が相手であろうと言うことを聞かない。過去に上官であった貴族の首を切り裂いた過去を持つ彼は、現在レンディにだけ絶対服従を誓っている。

「……」

視線を向けても無反応のレンディに、シグルドは軽く唇を噛み、諦めたように下を向いた。今日レンディが『話しかけるな』と最初に命じたことを一応覚えていたらしい。しかし話しかけるなということは強請ることも訴えることもできないということだ。
シグルドは命じられれば誰でも抱くし抱かれる。しかしあくまでも命じられればの話だ。レンディに絶対忠誠を誓う彼はレンディの命令だけは何でも聞くが、自分から欲するのはレンディだけだ。どれほど欲が溜まっていようと他の誰かを抱いたり抱かれたりはしない。

そのシグルドを見つつ、ちらりと視線を向けてきたのはアグレスだ。
シグルドの同僚であり、シグルドとペアで戦場に立つことが多い彼もレンディの寵愛を受ける一人だ。
短めの茶色の髪をした純朴そうな雰囲気を持つアグレスは、田舎の畑にでも立っていたら似合いそうな青年だが、実際はシグルドと同レベルの破壊力を持つ攻撃力に長けた青将軍だ。
彼もまた、レンディを愛し、レンディに忠誠を誓っている。今日は女を抱けと命じられて仕方なさそうな顔をしていた。


+++++


レンディは黒い髪に青い瞳をした中肉中背の平凡な容姿をした青年である。
しかし生まれ育ちは普通ではない。
洞窟の奥深くで暮らす少数民族キア族の生まれである彼は、幼くして両親を失い、青竜ディンガに拾われて育った。
そのままディンガに連れられて、戦場を転々として過ごし、噂を聞いたガルバドス国に話を持ちかけられた。
青竜ディンガは『俺に命令をするな。自由に行動させろ。そうすれば飽きぬまではこの国にいてやろう』と答えた。
完全な実力主義の軍事国家の王は青竜の条件を受け入れた。
青竜は軍事大国に力を貸し、戦場でその技を奮った。それは王を大いに満足させる結果を出し、レンディとディンガは厚遇を受けた。
そして青竜の使い手の名は大陸中に広まり、現状がある。


女性と麾下の将軍たちを置いて部屋を出ると、庭の方からレンディの名を呼ぶ声がした。

「レンディさまぁ」
「レンディさま〜っ」

数歳前後から十代半ばの少年少女たちである。
それぞれ飛び抜けて愛らしい姿をした少年少女たちは、可愛らしく歓声をあげると競うようにレンディへ駆け寄ってきた。

「レンディさまぁ。今日は一緒にお昼寝出来る?」
「一緒におやつ食べたいの〜」
「着せ替えしましょ?綺麗なドレス着たいの」

彼等はレンディが引き取った子供達で、レンディの保護下にある。
明るく積極的な少年達もおとなしめの少女達も皆レンディを慕っている。
誰よりもレンディに愛されたいと願い、レンディの気を引こうとする無邪気な様は見ていて楽しく、レンディは子供達を可愛がっている。もっとも普通の可愛がり方ではないが。

「残念だけど今日は仕事がある」

仕事と言われれば無理は言えないと子供達は知っている。そう教え込まれているからだ。
残念そうに離れていく子供達に見送られ、レンディは王宮へ出向いた。