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◆嵐の扉(7)


スティールは手を伸ばした水の入った器を取った。
酷く怠い。もうこれ以上ヤれと言われても無理だと思うぐらいたっぷりやり、水を飲んでいると再び小竜が現れた。
小竜はしげしげとスティールの印を見、そしてフェルナンの印を見ている。
何の確認だろうと思って見つつ、スティールは手を伸ばしてフェルナンの乱れた髪を軽く梳いて直してやった。
小竜は小さく首をかしげた。

「解放されてはいるんだが…」
「何?」

フェルナンはぐったりと寝台に沈んだままだ。乱れに乱れて、幾度も達していたので相当に体力を使ったようだ。恐らく今夜は意識が戻らないだろう。

「相当に頑丈に閉じていたのを文字通りたたき壊したような感じだな。この御仁には相当な刺激になったはずだ。よくもまあ堪えれたな。普通だったら正気を失うぞ」
「怖いことを言わないでくれ、ドゥルーガッ!こじ開けろって言ったのはお前じゃないかっ」

今更何を言い出すんだとスティールは焦った。ドゥルーガを信じて遠慮無くヤったというのに正気云々言われるとは思わなかったスティールである。

「結果がよければすべて良しだ。お前の印も解放されたから問題ない」

これで鍛冶も…と言い出しそうな小竜にスティールは怒った。

「そういう問題じゃないだろ!?フェルナンは大丈夫なんだろうなっ!?」

小竜はスティールを見上げ、フェルナンを見下ろした。

「運命の相手との交わりと他の相手との交わりは違う。そして同種印同士なら気持ちよさ程度の違いだが、異種印同士は刺激し合うからな。お前は他の二人で慣れているが、この御仁には初めての経験で相当な刺激だっただろう。何しろ受け身、運命の相手、おまけに異種印で成人後と、いろんな要素つきまくりだったわけだからな」
「だ、だから、フェルナンは大丈夫なのかよ?」
「まぁ大丈夫だろ。体だけで言えばちゃんと鍛えていて丈夫そうだからな。精神もそう柔には見えない」

ちょっとホッとする。本当に正気を失っていたらどうしようと心配だったスティールである。

「ちゃんと受け入れてもらえたじゃないか」
「え?」
「同種印じゃない場合、受け入れる意志がなければ、相手の生気はただの異分子だ。ちゃんと感じられるって事はフェルナンはお前を受け入れてるってことだ」
「そう…なのかな?」
「言っただろ。異種印同士は混ざらないと。だがな、時間をかければゆっくりと体に浸透していくんだ。同種がすぐに混ざるのに比べて時間がかかる。お前の場合、他にも相手がいるからあまり影響は受けないだろう。だがフェルナンの方はずっと余韻を引きずるはずだ。体にお前の生気が残り続けるからな」
「それって緑の癒し手が生気を動かして傷を癒やすのと違うの?」
「それはただの癒しの技だろうが。その場合は当人の生気を当人の体で動かすだけだから変化はない。他人の生気を入れて癒しを促進させる場合も術で相手の体に溶け込ませてしまうから違う。消費されるようなものだ。印の交わりとは別種だ」
「ふぅん…」
「相手を受け入れていない場合、体に残った生気に不快感を感じて拒絶反応が起きる。運命の相手同士だから派手な拒絶反応にはならないが、吐き気とかそういう不快感を受けるんだ。だがフェルナンは何度も達していたからな。本当に気持ちいいだけだったんだろうよ。恐らく体に残るお前の生気もフェルナンには心地良いだけだろう。ヤツがお前を愛している証拠だ。口ではなんと言おうとな」

嫌われていると思っていた。
性格的に合わないと思った。
巡り合わせも悪かった。運命の悪しき悪戯を感じたものだ。
そんなところでいきなり愛されていると言われても実感が沸かない。けれど小竜は嘘をつかない。信じてもいいのだろうか。

「フェルナンが起きたら聞いてみろ。何で抱かれたのかってな。恐らくこう言うだろうよ」

『嫌いな相手に抱かれるわけないだろう?』

小竜の予想は数時間後、見事に的中することになる。


<END>



本編でラブさの欠片もなかったので甘めの後日談。
異種印で刺激し合うため、体の相性だけは最高の二人です。