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◆風の刃


春の祭りと言えば、聖アリアドナの祭りである。想う相手にブーケを贈る祭りだ。
運命の相手達に出逢って以来、毎年相手の為に花束を作っているスティールは今年めでたく三人目の運命の相手に出逢ったため、きっちり三つの花束を作り上げた。

(うん、いい出来だ)

まだあまりよく知らない相手なので気に入ってもらえたらいいけれど、と少し不安に思いつつ相手の元へ向かう。相手は第二軍のため、所属が違うのだ。スティールは第一軍の所属であった。

(やっぱり緊張するよなぁ)

許可を得て内部に入る。やはり第一軍とは微妙に雰囲気が違う。
『各軍団長の雰囲気がでるんだよ』と友人ティアンが言っていたのを思い出す。近衛第二軍は知将ニルオスの軍で型破りのくせ者揃いという。

(フェルナン様はその第二軍の人なんだけど…)

しかもニルオスの片翼と言われてる人だ。第二軍がくせ者揃いというのなら、フェルナンも相当なのだろう。

(穏やかそうで人当たりも良さそうな人に見えるんだけどなぁ…)


『今回の相手は成人済みか…しかも水と風で異種印…厄介だな』

紫竜ドゥルーガがそう呟いていたのを思い出す。

そりゃあ厄介だろうとスティールも思った。
新米騎士と軍のナンバー2だ。相手が格上すぎる。年齢だって10歳前後年上だ。
スティールが紫竜ドゥルーガの呟きの本当の意味を知るのはもうしばらく先のことであった。



(早くあの人のことを知らないとなぁ…)
しばらく歩くと通路の先の扉が開き、ぞろぞろと人が出てきた。会議中だと聞いていたので待つつもりだったが、どうやらタイミングよく終わったらしい。その中に目的の相手もいた。柔らかな亜麻色の髪を軽く流し、副将軍の証である両肩を覆うような形のマントを羽織った相手は他の幹部たちと何かを話している。遠目に見ても見目の良い相手にスティールは少し緊張した。

(やっぱりすごいなぁ……あぁ呼ばなきゃ)

スティールが意識を込めて水の印を動かすと相手の風の印が動く。相手は驚いた様子で己の腕を見ている。どうやら理由が分からなかったらしい。

「フェルナン様、俺です」

声をかけるとフェルナンはやっと気づいた様子で顔を上げた。

「スティール…今のは…」
「ご存じかもしれませんが、相印の相手と印を同調させたときにおきるものです」
「あぁ、聞いたことがある。こういう感じなのか」

興味深そうに己の腕を眺める相手へスティールは目的の花束を手渡した。

「おやこれは私が貰っていいのかい?」

眼を細めて嬉しそうに笑むフェルナンはこういったことに慣れている様子だった。特に驚くことなく受け取る。

「はい、今日は聖アリアドナの祭りですから。あとこちらはプレゼントの短剣です。俺とドゥルーガが作りました。是非お使いください」
「紫竜が…」

ちらりとスティールの小手を見、フェルナンは嬉しそうに笑んだ。

「綺麗だね、ありがとう。大切に使わせてもらうよ」

じゃあねとスティールの頭を撫でるとフェルナンは同僚たちと去っていった。

「………」
「まるっきりガキ扱いだな」

小手のまま、ドゥルーガがぽつりと呟く。

(そりゃ俺の方が若干背は低いけど…ずっと年下だけど…新人騎士だけど…)

けど頭を撫でられるとは思わなかった。喜んでもらえたのだろうが、なんだか微妙な気持ちだ。
去っていくフェルナンの背は大きく見える。それは体格だけでなく彼が歩んできた経験がそうさせるのだろう。

(…年齢差って大きいな…)

思わず項垂れるスティールであった。