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◆閉じた箱庭(9)


兄の元を辞すと自室近くの庭に幼なじみたちの姿が見えた。
幼い頃からウィリアムをウィリアム自身として扱ってくれた友らは、いつものようにカードをして遊んでいるようだ。
卓上には酒瓶が見える。この幼なじみたちは一筋縄じゃなくひねているところがある。そうしてしまったのは自分にも責任がある気がするが、彼等はそれさえも受け入れて楽しんでいるかのようだ。

「昼から酒か」

そう声をかけながら近づいていくと三人は揃って振り返った。

「こんなの水代わりッスよ。軽い軽い。軽すぎて足りねえって思っていたところです」

そう言って笑うのはティーガだ。一番ひねていて一筋縄じゃいかない性格をした彼だが、その性格故に、優秀な外交官として頭角を現しつつある。頭の回転が速く、視野の広い彼は、海千山千のしたたかな年長者たちに少しも引けを取らぬ舌戦を繰り広げることができる。

ウィリアムは四つ目の椅子に座った。彼等のいる場所には必ず四客の椅子がある。
王宮の自室でも、客間でも、そしてこの庭にもだ。
三人の幼なじみは常にウィリアムの分の場所も用意してくれている。

「頭の中身も足りないだろう、君は。そら、ダブルカード。こっちのカードを貰うぞ」
「ぐわ、少しは手加減しやがれ!」
「手加減?そんなことをして何が楽しんだい?」

ニヤリと笑むノイは女顔のまま成長した。
顔を縁取る柔らかな金髪や水色の瞳は姫君のように愛らしいが、中身はしたたかな政務官だ。彼は主に内政に従事し、将来の宰相を狙っていると言われている。

「ストレート」
「げえ、ここでストレート出すか、お前?」
「負けは嫌いなんでな」

淡々と告げるクルークは三人の中で一番真っ直ぐな性格をしている。
彼はそのまま軍に入った。軍門の家系に生まれただけあり、素質も十分で、次代の将軍は彼だろうと言われている。
二人の友に囲まれて多少は感化されたのか、したたかさを持つようになったが、性根は真っ直ぐなままらしく、皮肉混じりの話題には時々顔をしかめている。しかし賭けや酒は好きらしく、よく友とカードに興じる姿がみられる。

「殿下、嬉しそうですね、何かいいことでもありましたか?」
「おー、めでたい、っつーことで飲み会ですね。宴だ」
「ティーガ。何がめでたいのか聞きもせずに飲もうとするな」

どんなときも側にいてくれた友にウィリアムは笑った。
今まで感謝することすら忘れていた。にもかかわらずずっと側にいてくれた。
彼等のおかげで今まで生きてこられたと言ってもいいだろう。一番苦しかったとき、側にいてくれたのは彼等だ。

「実は惚れた相手ができてな」

そう告白すると三人は顔を見合わせた。

「ほらみろ、ホントにめでてえじゃねえか。酒が飲めるぞ」
「お前はそれしか頭にないのか。…殿下、おめでとうございます。どちらの方で?」
「真っ当な相手なら喜んでご協力いたしますよ。真っ当じゃない相手でしたら、少々手を加えないといけないかと思いますがね」
「ノイ、何をする気だ、何を」

それぞれ性格に合わせた反応を見せる三人にウィリアムは笑った。

「そうだな、真っ当な相手だとは思うが協力してくれ。何しろかなり手強そうなんだ」

そう告げると三人は笑った。

「そいつぁ面白え。手強い相手は大歓迎ッスよ」
「おやおや、手強い相手をお選びになられるとはさすが殿下。お目が高い。むろん、ご協力いたしますよ」
「ふむ…俺は恋愛事は詳しくないのですが、できる限りのご協力を致します」

で、誰ですか?と問うてくる三人の友にウィリアムは口を開いた。

「実はな……」


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