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◆ガルバドスの闇市場(1)


ジダンとロブはウェール一族の護衛である。
ウェール一族は大金持ちの上、伯爵家だ。当然、大勢の従業員を抱えている。
雇われるには少々条件が厳しいが、支払いがいい上、不慮の負傷や死亡時の保証もなされているため、人気が高い。代々ウェールに雇われる家もあるほどだ。
ジダンとロブもそのタイプだ。親や兄弟がウェールに雇われていて、その流れで彼等二人も試験にパスしてウェールに雇われた。
現在二十代半ばのジダンとロブは若手でも腕の良い護衛だ。若い頃からウェール家に仕えるために学んできたため、一通りの教養もある。
そんな二人は当主のジンに新たな指令を受けた。

「どうもうちの黄色いのが何やら騒ぎを起こしたらしい。シェルがいるから大丈夫とは思うが、あれも本家の者がいれば心強いだろう。行って力になってくれ。現地ではシェルの指示を仰ぐように。バディもいるが、あれに関しては護衛第一だ。指示は適当に聞いておけばいい。あくまでもシェルの指示を第一と考えよ」
「ハッ!!」
「砂金と棒金を用意してある。シェルに持っていけ」
「承知いたしました」


+++


「バディのヤツ、全然信頼されてないみてえだな」
二人の護衛が部屋を出て行った後、ジンの隣で話を聞いていたバディの母、エマードはそうぼやいた。黒に近い赤毛と黒い瞳を持つエマードは現役の傭兵であり、各国を渡り歩いている。年に何度かパスペルト国へ帰ってくるが、放浪癖は一向に直らない。

「…んー………まあな」

ジンは否定しなかった。否定しようがないからだ。
シェルと三ヶ月違いのバディはシェルと殆ど年齢差がないため、兄と弟という感覚はないらしい。
バディは幼い頃からシェルに懐いていたが、シェルが年齢に似合わず、妙に落ち着いた子供だったのに対し、バディは子供らしく悪戯ばかりしている子供だった。
バディが行う悪戯の後始末をシェルはしていた。そのせいで兄弟順が逆のように見えたものだ。それは成長しても変わらず、シェルはいつも兄の面倒をみている。
バディも自覚しているのだろう。いつもシェルの側にいて側を離れたがらない。
シェルが支店へ修行へ出向いていたときも、しょっちゅう支店へ遊びに行っていて

『俺、シェルの子を産みたいな』

そうぼやいていた。
ブラコンが延長してそういう感情に繋がってしまったらしい。
パスペルトの法律では異母兄弟であれば婚姻できる。不可能ではない。
しかし今のところ、シェルの方にそういう感情はないようだ。バディも気づいているらしく、父であるジンにぼやく以上の行動にはでていない。

「俺はどーでもいいけど」

エマードはそう言う。
放浪癖が直らないエマードは殆ど子育てをしていない。親としての役割を果たしていない自覚があるのか、バディに関しては完全にジンに一任している。

「まぁ王家に行くか、うちに留まるかだろ?どっちにしろ、心配はいらなそうだな」

王家では第一王子が溺愛してくれるだろう。家に留まるならシェルがいるから心配はいらない。

「そうだな」
「しかしルーのやつ、今度は何をしでかしたって?全く昔から代々のウェール一族に迷惑をかけるヤツだな。七竜なんて大層な名をつけられているくせに宣伝効果以外、何の役にもたたねえヤツだと思わねえか?」

呆れ口調のエマードにジンは苦笑した。

「まぁそう言うな。一応家族の一員だ。出来の悪いペットだと思えば腹も立たん。それに宣伝効果だけは絶大だからな。あれが起こす厄介事も宣伝費だと思えばいいさ。
実際、たまに起こす厄介事も派手だから『ウェールには七竜がいるんだぞ』といういい宣伝になるんだ」
「随分前向きな考え方だな」

まぁお前がそういうのなら構わないが、とエマード。

「まぁ大船に乗ったつもりで俺に任せておけ。伊達にウェールの長じゃない。七竜ごときに沈められる船じゃないさ、ウェール一族は」

あっさりそう告げて笑うジンにエマードは顔を赤らめた。

「ったく…そういうところは格好いいんだからよ」