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◆竜鱗の害獣退治(1)


北の大国ホールドス国の王、ホルドウェイは小さくため息を吐いた。

「全く困ったものだ」

彼の側近である『七騎士』の一人が命令違反をした。
命令違反をする側近は幾人かいるが、その中でもジョサイアはいつも質の悪い命令違反をする常連だ。軽いものなら見て見ぬふりもできるが、今回は派手だ。勝手に他国に乗り込んでいったのだから。しかも、被害まで出たとなっては見て見ぬふりも出来ない。
やっかいな、と愚痴っているとそれを耳にした母が刺繍をしつつ小さく笑った。

「やんちゃな子ねえ…」

扱いの難しい側近ジョサイアも母に言わせれば『やんちゃ』な子供らしい。
ホルドウェイは苦笑した。
見た目だけなら上品で物静かな中年女性だが、中身は息子であるホルドウェイを玉座に着けることに成功した女だ。頭がよく、強かな女なのだ。
何度も命の危機に晒されながらも、しっかりとホルドウェイを育ててくれた女性であり、外見は飾っておきたいようなお人形でも、中身は男の裸体を見てもびくともしないような女傑なのだ。
そんな彼女は王の母となっても変わりがなく、マイペースに生きている。そんな彼女にはホルドウェイも幾度も助けられた。
母には何を言っても適わないので、ホルドウェイも好きにさせている。母の趣味は花を見ることと、花模様の刺繍をすることだ。花さえあれば満足してくれるので、気楽でいい。王城の庭が母好みの花だらけになったところで、ホルドウェイには何の問題もないのだ。

「悪い子には、お仕置きなさい」

長年、王宮で生きてきた母は、人と人との駆け引きに強い。特に人の心理を見抜くことに長けている。
人の心に敏感な母だ。彼女が『お仕置き』を進めるというのであれば、ジョサイアにはそうした方が、効果があるということなのだろう。
実際、何らかの形で処分は下さねばならないと思っていたところだ。

(お仕置き、か)

ジョサイアのようにプライドが高く、扱いづらい相手は痛みよりも、羞恥と快楽を伴うようなお仕置きが効果あるだろう。
いい案かもしれない、とホルドウェイは思った。