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◆聖マイティスの半身(1)


エルザークたちは王都への道を進んでいた。
その途中、冒険者ギルドが経営している食堂兼宿屋に入り、一行は夕食をとっていた。
卓上にはこの手の店にありがちな、質より量の食事が並んでいる。

「えーと、老シオン将軍、ニルオス将軍、リーガ将軍、ディ・オン将軍、アルディン将軍が現在の近衛五将軍のようです」

店主にチップを渡し、情報を得てきたアーノルドからの報告にオルスが顔を上げる。
その隣の席に座ったロイは頷いた。

「間違いないと思うぜ。その五人になって一年以上が経っているし、どこかが代替わりしたとも聞いていない」

軽めの酒を飲みつつエルザークは眉を寄せた。

「第三軍が違うな……そんな将軍、記憶にないぞ。リーガ……?」
「……リーガ=リィ=フィオレ将軍。侯爵家のお生まれで火と風の上級印を持つ、印使いの手練れだそうです…」

いつも快活なアーノルドが珍しくも言いづらそうに告げる。
エルザークは目を見開き、オルスは青ざめた。

「間違いないのか?」
「いや、でも、印が違う。リーガ様は炎だけだったはず」
「俺もそう思って詳しく聞いてきました。白い髪で小柄で、人形のように整った美貌の方、らしいッス。第二王子殿下のご友人でもあられるとか。印が違っても、ここまで特徴が揃ってたら同一人物だと思うッス…」
「本当かよ。リーガ様が軍人だと…?しかも近衛将軍だって?信じられねえな」

オルスは無言だ。
いつも明るく穏やかな笑みを崩さない友が黙り込んでいる姿を見て、受けたショックは相当大きいようだとエルザークは思った。

リーガ=リィ=フィオレ。
肩までの白い髪に青い瞳を持ち、人形のように繊細な美貌を持つ青年。
彼はオルスの幼なじみであり、侯爵家の生まれである彼は、伯爵家出身のオルスの親族でもある。
オルスの母とリーガの母が友人同士ということもあり、リーガとオルスは仲が良かった。
かつての世界でリーガは軍に入らなかった。つまり普通の貴族の子弟だったのだ。
士官学校経由で軍人になったオルスとはしばらく親交が途絶えていたが、成人後、しばらくして二人は再会した。そのとき、二人は運命の相手であることが判った。
リーガの炎とオルスの土。
アーノルドとエルザークの組み合わせと同じく、異種印であり、抑え合う関係だ。

『私たちがよくない組み合わせだって?気にするんじゃない、オルス。私は軍人じゃないから、印なんてどうでもいいさ』

そう言って、かつての世界のリーガは笑った。繊細そうな見た目と反対に、意志が強く男らしい性格の人物だった。
オルスにとっても、戦場でリーガと一緒になるわけではないのでさほど気にしなかったようだ。
二人の関係は穏やかなものだったが、常に戦場に出るオルスと典型的な貴族であるリーガは生活パターンが違いすぎ、結局は別れることとなった。
別れたとき、オルスは珍しく落ち込んでいた。
それがかつての世界での話だ。

(リーガ様が軍人ね。判るような判らないような…)

プライドが高く、思考に柔軟性があり、頭の切れる男だった。
かつての世界では次代の王である第二王子の側近として、国を動かしていく立場になるであろう男だった。
その彼が軍人。似合うような似合わないような、正直に言えばよく分からない、と思うエルザークである。

ただ、一つだけ判っていることがある。
彼はオルスにとって、とても大切な相手である、ということだ。