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◆黒き歴史の傍観者(1)


深い森には焼けこげたような匂いが漂っていた。
「早急にお探しせよ!!」
隊長の怒鳴る声が聞こえてくる。
19歳の騎士エルザークはその声に応じて愛馬を下り、他の騎士たちと共に焼けこげた森を捜索し始めた。
エルザークは昨年騎士となったばかりの新人だ。藍色の髪と黒い瞳を持ち、背はやや高め。しかし騎士としては抜き出ている方ではない。
(ここにおられない方が生存率は高いだろう)
捜索に出ているのはエルザークたちだけではない。領主軍とディンガル騎士団が北の至宝と言われる双子の将軍らを必死に捜索しているが手がかり一つ見つかっていないのが現状だ。
(それにしても酷い状態だ。炎の印か?大木が芯まで炭になっている)
その近くにキラリと光るものが見えた気がしてエルザークは近づいていった。
(球?装飾品か?)
大きさは卵の半分ぐらい。黒水晶のようなその品を誰かの遺品かもしれないとエルザークは拾い上げ、ポケットに入れた。
結局、目的の相手を見つけることは出来なかった。
北の至宝と歌われ、若くして数々の武勲をたてた双子の将軍は永久に失われてしまったのである。