それから約三年が経った。
無事ディンガル騎士団に入団したエルザークたちだったが、それにはおまけがついていた。
入寮日。寮の入り口で出会った相手にエルザークは驚いた。
「なんでこいつが俺たちと同期なんだよ!?」
二つ下のはずのアーノルドが一緒だったのである。
「酷いッス、どういう意味ッス!?」
「いや、同期じゃないぞ。見習い生だ」
いつも通り穏やかな笑顔で大らかに説明するのはオルスだ。
「アーノルドの武術と印の強さを考慮して、特別に見習い生として許可してもらったんだ。今後、実績を積めば、正式な騎士として承認されることになるが、今はまだ見習いだ」
三年が経ち、アーノルドは何とか読み書きやマナーなどはそれなりに出来るようになった。
勉学の方は最初の致命的な遅れで相変わらず酷い成績だったが、武術の方は反比例するようにぐんぐんと上がり、同級生の中では敵無しの強さを誇っていた。
そして問題だった印の方も身体が成長期に入って、グンと背が伸びたことにより、発作もずいぶんと抑えられるようになっていた。
一つはエルザークの存在も大きいだろう。地の印は確かにアーノルドの印の暴走を抑えることに役立っていた。
士官学校を卒業したことでしばらくアーノルドと離れられると思っていたエルザークはうんざりと運命の相手を見つめた。
小猿のようだったアーノルドは今やエルザークと同レベルの長身だ。
黒髪と同色に見えるほど真っ黒に焼けた肌や痩せすぎで骨と皮だった体も成長するに連れ、バランスがよくなり、筋肉もほどよくついて、見栄えはグンと上がった。
大きな目は好奇心旺盛に輝き、目鼻立ちは肉が付いたことで思った以上にバランスがいい配置であることが判った。最近は可愛くてかっこいいと学校周辺の少女たちに噂されていることもあるようだ。
「オルス、お前また何かしやがったな?」
「酷いぞ、今回は本当に濡れ衣だ。打診されたのは事実だがな」
オルスの説明によると、アーノルドの大きすぎる印の力が士官学校で問題となったらしい。
今まではエルザークが抑えていたが、エルザークがいなくなることにより、印が暴走しないかどうかということが不安材料となったということだった。
アーノルドの印は強大な分、大きな破壊力を持つ。攻撃としてはこの上なく心強い存在だが、今のところコントロールは皆無でただ思いきり放たれるだけという代物だ。
むしろ、士官学校より実戦で鍛えてくれとばかりに飛び級での卒業を許可されたということだった。
(それじゃ騎士になってもこいつと組まされるのかよ…)
エルザークはそう思ってうんざりしたが、騎士は基本的に運命の相手がいたら組まされるものである。
(出世は早いだろうな。何しろ破壊力だけは抜群だ)
アーノルドの出世に関しては心配いらないだろう。むしろ印の暴走で味方に被害が出る方が心配だ。
(ったく、しょうがねえな…)
「えーと、寮は…」
「あ、西棟の205号室ッス!」
調べる前に隣から声がした。
ちらりと見上げる。わずかだが相手の方が視線が上であるのが腹立たしい。
相手は成長期真っ最中だ。まだ伸びるだろう。
「俺の部屋の話をしてんだぞ?」
「俺と同室ッスよ、先輩」
「なんで見習いが騎士と同じ部屋なんだよ!?」
「印が暴走したら困るからだそうだ」
のんびりとオルスが笑顔で教えてくれる。
相印の相手ということもあるが、とことん腐れ縁らしい。
「……えーと…先輩、俺、掃除頑張りますから!」
少し申し訳なさそうな顔。
一応、迷惑をかけそうだという自覚はあるらしい。
(今度は生活習慣を叩き込まなきゃいけねえってか!?)
この三人がディンガルを担うことになるのはこれから約十年後の話である。
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