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◆鎮静の絆(1)


エルザークはウェリスタ国北西に位置するディンガル騎士団のディンガル士官学校の生徒である。
藍色の髪と黒い瞳を持つエルザークはやせ形でやや目つきの鋭い青少年である。
地元であるという理由で入ったエルザークはそこで伯爵家出身のオルスという名の生徒と同室になった。
エルザークも貴族だったが彼は名ばかりの下級貴族出身でおまけに父は病で早死していた。
母に女手一つで育てられた彼は少しでも早く母を楽にしたくて士官学校へ入ったのだ。
一つには母の事情もある。母は再婚話があり、母自身、乗り気だったのだ。
そうして入った士官学校でエルザークはオルスと仲良くなった。
褐色の髪と同色の瞳を持つオルスは、同世代の中でも飛び抜けて大柄な体格を持ち、大らかで善良な性格であった。最初はやりづらさを感じた皮肉屋なエルザークも結局嫌うことが出来ず、二人は自然と仲良くなった。
そうして入った士官学校でエルザークは二年後、将来、運命の相手となる相手と出会うことになったのである。



出会いは良くなかった。
相手は小柄で真っ黒に日焼けしていて、おまけに泥汚れで全身真っ黒だった。日焼けと重なって本当に真っ黒だった。
やんちゃな悪ガキそのものであった相手はオルスと幼なじみの少年でアーノルドといった。
オルスは既に180cmを超えていたので、並ぶと体格差が30cmほどあった。
エルザークも180cm近かったので完全に大人と子供であった。

「はあ!?読み書きが出来ねえ!?お前の幼なじみなんだろ!?オルス!!」

オルスは優等生だ。エルザークも学年で常に五位内に入っている。
オルスの幼なじみと聞いていたので当然勉学もそれなりにできるのだろうと思いこんでいたエルザークは驚いた。

「すまんな、甘やかしすぎたかもしれん。こら、ちゃんと勉強しろよ」

オルスは笑いながら軽くコツンとアーノルドの頭を叩いた。
それじゃ躾にもなってねえ、とエルザークは呆れた。甘やかすにもほどがある。

「っつーか、どうやって士官学校に入学出来たんだよ!?」
「あぁ、コネだ」

あっさりと言われ、エルザークが目眩がした。
オルスは地元の伯爵家の出身だ。当然ながらディンガル騎士団にも大きな影響力を持っている。ようするに地元のご領主さまのお子様なのだ。
その繋がりでアーノルドも口を利いてもらったのだろう。

「今後もそれで通用させる気か!?冗談じゃねえぞ!!とっとと最低限の読み書きぐらい、その頭に叩き込め!!」

口は悪いが基本的に真面目なエルザークは二人に雷を落としたのであった。