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◆地〜歩む道と信頼と〜(1)


ローは戦災孤児である。
藍色の髪と黒い瞳を持つローは体格も容姿も普通で、あまり目立たない外見だ。
ローは10歳頃に両親を亡くした。
戦いが続くガルバドスは孤児院が足りていない。満員のところが多く、ローのように10歳を越えてしまうと後回しにされてしまう場合も多かった。
しかし子どもが保護者なしで生きていけるほど甘い世の中ではない。衣食住がないと辛いのは大人も子どもも同じだ。
結果、ローは他の多くの戦災孤児と同じように日雇い労働に雇われた。国が行っている公共事業の一部は戦災孤児を雇ってくれるのだ。
仕事内容はただの荷運びや掃除、洗濯、荷の仕分け作業などの単純作業が中心だ。中には子どもを使い捨てるような劣悪な状況の仕事もあり、賃金も殆どもらえないパターンも多かった。
しかし、子どもにとってはどうしようもない。雇ってくれぬ職場も多いため、文句を言えるはずもない。まして、ローのように10歳前後では働く孤児としては最低年齢に近い。顔を見ただけでくるなと言われる日雇い職場も多かった。
結果、ローは生きるために必死に仕事をこなすようになった。そうするしか生きるすべはなかった。出来るだけノルマをこなして、仕事ぶりをアピールするしか職を得る道はなかった。例え他人の仕事を奪ってでも、仕事をこなして、それを大人に報告し、賃金を得る。
そうやって生きてきた。
それは運良く上級印を経て、軍に入った後も続いた。そんな方法しか知らなかったからだ。
とにかく仕事をする。数をこなすのだ。働かねば食べていけないのだ。奪ってでも行うのだ。仕事をした方が稼げるのだから。できるだけ仕事をすることが正しいのだ。
孤児のローはそれしか生きる方法を見いだせず、また、周囲にそれを正す者もいなかった。


軍人となったローは、軍に入った後も同じように仕事を続けた。
軍人は手柄を立てた方が出世できる。当然ながらローも手柄を立てて出世する道を選んだ。
確実に出世するために大きな戦功を得るため、なりふり構わぬ手を使ったこともある。それによって周囲からの評価はグンと落ちたがローは後悔しなかった。軍は実力主義の世界だ。人に優しくすることで飯を食べていけるかと言われれば否だ。優しい顔をしつつ、食い物を盗む者など下層街には当たり前のようにいた。人柄などで飯は食っていけない。出来るだけ仕事をして、稼ぐ。金は裏切らない。手柄を立てた方が勝ち。仕事をした方が勝ちなのだ。

そんな仕事のやり方を続けたローは自然と周囲に避けられるようになった。
それでも奪うように仕事は続けていたが、疎まれ続けると仕事も回されなくなる。周囲の将軍らともぶつかることが多くなった。
結果、ろくな仕事すらない、暇な砦の長となった。見事に左遷だ。本来、赤将軍がやるべき仕事ではない。
そうして燻っていた頃、新たな青将軍の話を聞いた。
新しい将の元ならば仕事がもらえるかもしれない。仕事がもらえたら自分も部下も食べていける。
ローはそう考え、新たな青将軍アスターの官舎へ向かった。彼は兵士上がりの将だと聞いていたからだ。エリート意識が強すぎる将よりやりやすそうだと思ったのだ。
幾日か官舎で粘り続け、声がかかるのを待った。今のローは形式上は他の将の部下だ。アスターの元で働きたくても無理なのだ。移動したくても現上司に嫌われまくっているローでは望みを叶えてもらえそうにない。アスターの方には面識がない。
しかし粘ったのは正解で、アスターが身柄を引き取ってきてくれた。ローは無事、新たな将の部下になることができたのだ。

(やっとまともな仕事にありつける)

自分も部下も稼げるのだ。
ローは内心、安堵し、喜んだ。