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◆人形なる獣(10)


ディルクは戦没者用の墓地に葬られることになった。
専用の墓碑はない。代わりに墓地の入り口に大きな墓碑がある。名の判らぬ戦没者もまとめてここで葬られるようになっているのだ。
そして名前だけが名簿に刻まれる。こうして死さえも事務的に処理されるのが軍事大国ガルバドスという国だ。

当初、ノースは墓穴ぐらいは自分で掘ろうと思っていた。ディルクにはしてやれることが殆どなかった。せめてそれぐらいはと思ったのだ。
しかし、ノースが言い出す前に同行したダンケッドが地の印を使い、一瞬で穴を掘り上げてしまったため、結局それさえもできなかった。

(最後まで何もしてやれなかったな。所詮、自己満足に過ぎないが…)

自嘲気味にノースがそう思っていると、後ろに立つカークが、後悔しておいでですか?と問うてきた。ディルクを殺したのはカークだ。気になっているのだろう。

「いや……」
「そうですか?だったらいいのですが」

珍しくも歯切れの悪いカークに対し、ダンケッドが口を開いた。

「そう悪くない死だったと思うが」

無口な部下が自分の意見を言うのは珍しい。怒りより興味が勝り、ノースは背の高い部下を見上げた。

「部下が上司のために死ぬのはよくあることだ」

確かに戦場では珍しくないだろう。
言われてみればただそれだけのことのように聞こえ、ノースは戸惑った。

(私への慰めか…?)

無口な部下の気遣いなのだろうか。そうノースが思っているとダンケッドが再び口を開いた。

「それよりこの墓碑はシンプルすぎる」

骨董品を愛するダンケッドには不満らしい。

「全くです。デザインがよくありません。死した人の功績をたたえるためのものですからもっと派手にすべきです」

デザインや美にこだわる部下の会話にノースは苦笑した。
彼等らしい会話だが、これは墓碑なのだ。

「眠る場所を派手にしなくてもいいだろう。シンプルなぐらいがちょうどいい」
「私は嫌ですよ!」
「君のための墓碑は死す前に用意しておくといい。だが私より遅く死んでくれよ。もう部下を見送るのはゴメンだ」

そう告げるとダンケッドとカークは顔を見合わせた。
張りつめた雰囲気が柔らかく変化する。

「上司より遅く死ぬなんて出来損ないの部下ですよ」
「…老衰で死にたいな。だが死ぬのは年齢順だろう」

二人ともノースより年上の部下だ。

「ノース様の墓碑はちゃんとデザインしておきますね」
「良いデザインでな」
「ええ、もちろんですよ、ダンケッド。美術的価値があるデザインにしておきますから」
「……いや、私はここのこれでいいよ。だが戦場では死にたくないな」
「でしたら、戦没者になりませんから、やはり墓碑がいりますよ」

戦場以外の場所で死にたい。
戦没者として埋葬されるよりカークが作った墓碑で埋葬される方が幸福と言えるだろう。愛情も籠もっている。

「…シンプルなデザインで頼むよ、カーク」

ええ、おまかせくださいという陽気な声を聞きつつ、ノースはディルクに別れを告げた。
二人の部下のおかげで暗い気持ちを引きずられずにすむ。部下を失ったが助けてくれたのもまた部下だった。
二人の側近が今居てくれることを感謝しつつ、ノースは帰路についた。

<END>