綱~勝利をたぐり寄せる手~
(ダンケッド視点)
王宮へ行くとバルドイーンが見覚えある女と共にいた。
「だ、ダンケッド!?どうしてここに……」
ダンケッドは侍従に取り次ぎを依頼せずとも通してもらえる。それが許されるほどの中になっているからだ。だが今回はそれが徒になり、女とバルドイーンが睦まじくしているところに踏み込むことになってしまった。
(謝罪文を送っておきながら女と楽しんでいるのか……)
ダンケッドは急速に熱が冷めていくのを感じた。
アスターからの助言により、自分ももっと動くべきだったかと反省をしてやってきたというのにこの有様ではそうする気になれない。
「邪魔したな」
「待ってくれ、ダンケッド!」
「私は世継ぎを産む女なんです。ちゃんと殿下のお役に立てますわ」
「あ、アデーレ、突然何を……」
「確かにあの方は大貴族かもしれません。ですが玉座に就いた後は無意味でしょう?私は殿下の御子を産めます。殿下の御子ならば何人でも産んでみせますわ。ちゃんと私はお役に立てます!」
必死な様子で女はダンケッドに張り合うかのように言った。
その姿を見てダンケッドは腹が立つよりも感心した。
女はまだ十代半ば。ダンケッドとは十以上もの年齢差があり、ダンケッドと違って家の格も流れる血もギリギリ王宮に上がれる程度のものだ。つまり強い後ろ盾がない。
そんな身で女は身一つでやってきた。そして生き延びるために必死に努力をしているのだ。女が縋れるものはバルドイーンしかなく、バルドイーンのために子供を何人でも産むと主張している。彼女がダンケッドに勝てるものはそれしかないからだ。
細く小さな体で、頼れる味方もほとんどいないであろう王宮で、必死に頑張っている。
一方のダンケッドは文句なしにいい血を引いた大貴族の生まれだ。オマケに自力で手に入れた黒将軍という地位も持っている。自分が嫁げばバルドイーンを玉座につけられるほどに力がある。女が持つ権力とは雲泥の差だ。
それでも女は張り合ってきた。それだけ必死なのだ。この王宮で自分の居場所を作るために必死に努力をしている。一途に頑張る様は見ていて悪い気がしない。立場的にはライバルだというのに不快感がないのだ。
(ああ、そういうことか。もう駄目なのかもしれないな……)
張り合おうと思うほどの気持ちが自分に残ってはいないのだ。
まさか十年以上の付き合いがこうして壊れてしまうことになるとは思わなかった。
「バルドイーン、私も頭を冷やしたい。別の日に冷静に話し合おう」
そう告げてダンケッドはその場を去った。
もうかなり気持ちは冷めてしまった。だが自分とバルドイーンの関係は即決できるようなものではない。王位継承問題が絡んでいる以上、熟考する必要がある。
自分の気持ちだけで決められる問題ならば別れ話をしていただろう。だが実家のこと、自分の持つ黒将軍としての立場のこと、第二王子側についているアスターやギルフォードたちとの関係など考えねばならないことはたくさんある。
次に会うときまでにそれらのことをしっかりと考えた上で結論を出さねばならない。
(いっそアスターに決めてもらうか?)
平民出身のアスターは上流階級出身のダンケッドが考えもしなかったような意見を出してくることがあって、話していて驚くことがある。
だが彼の意見は大変参考になるのだ。聞いていて感心することもある。最近のダンケッドはアスターのことをノースとは違った意味で頼りになる相手だと評価している。
(だがアスターでは上流貴族の事情を理解できないか。惜しいことだ)
実家は継ぎたくない。だが……アスターは『本気でベルンスト殿下とお付き合いなさるおつもりであれば、協力します。娼婦を本気で愛しておられたあの方ならばダンケッド様とも真摯に向き合ってくださると思いますから』と話していた。あの時は聞き流していたが本気で考えてもいいかもしれないと思う。自分は確実にベルンストの役に立てる。そしてベルンストのことは高く評価している。彼が王になればよき王になるだろうと思うのだ。彼にはそれだけの実力がある。
娼婦を愛していた時は愚かだなと思った。だがこうなってくると彼の行動は愛情溢れるものだったなと思うのだ。その愛を向けられると思えば悪くない。
ベルンストはまだ娼婦を失った痛手が消えていないという。だがそれでもいい。別に心から愛してくれなくとも正妃として迎えてもらえれば自分は実家を継がずに済む。そしてアスターたちとも玉座を巡って争わずに済む。
そして相手がベルンストなら実家も文句を言ってこないだろう。バルドイーンとベルンストは結婚相手としては同等だからだ。そして自分がベルンストに嫁げば玉座は確定する。王位継承者に嫁ぐのであれば実家も文句はないだろう。
(俺は彼がくれる愛に返していなかったのだろうか。遅かったのか?だからこんなことになったのだろうか……)
そんなことを思った。