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◆赤〜温かき生の紅〜(15)


アスターはショックを受けていた。

レンディに会うのは初めてだった。
セルジュ部隊、カーク部隊と所属してきたが、彼に会う機会はなかったのだ。
会議室へ入ってきた姿を見たとき、驚きとうれしさでいっぱいだった

(……坊!!)

最初は見覚えある姿に嬉しかっただけだった。単純に今ここにいる理由などを考えずに喜んだ。しかし駆け寄ろうとしたのを止めたのは彼の体に巻き付く腕のような太さの大蛇が眼に入ったからだ。

(…まさか……)

今まで彼が身につけていたのは鎖だった。
今は大蛇。
七竜は幾つかの姿を持つという。青竜の別の姿は鎖ではなかったか?

「…坊?」

目が合う。
アスターの小さな呟きに大蛇を纏わせた青年は薄く笑んだ。
衝撃がアスターを襲った。


++++++


「……坊」
「もう坊やじゃないよ、俺は」

追いかけたものの、どう呼んで良いか判らずに以前のままの呼びかけで呼び止めたアスターは静かにレンディを見つめた。

涙ながらの再会を期待していたわけではない。
けれど会えなくなった後、ずっと探し続けていた相手だった。
このような形で再会するとは夢にも思っていなかったのだ。
困惑気味のアスターにレンディは笑んだ。
以前のような無邪気な笑みではなく、かといってゾッとするような冷たさの笑みでもなく、ただ静かな笑みだった。

「俺が怖い?」
「……坊…」
「俺が嫌いになった?」
「…坊……レンディ……」
「アスター。俺は貴方に名を知られたくなかったよ」

何かが飛んできた。
反射的に受け止めると、それは木製の駒だった。
何十個も駒がいるそのゲームは一般的に人気のある遊びだが、買いそろえるには少々高額だ。ゆえにアスターはそれを一つずつ手作りしていた。

『一個ずつ作ってるんだ。全部出来たら一緒に遊ぼうな。ルールを教えてやるよ』

そういって、最初に出来た駒を渡したことがあった。
彼はそれを大切にとっておいてくれたのだろう。
それを返す意味はもう必要ないということなのだろうか。

(……坊)

レンディは高位だ。軍最高位にいる彼は本来、アスターが気安く近づける身ではない。

戦場で見た山のように巨大な大蛇を思い出す。
毒霧で大量の人を殺す姿を遠目に見たこともある。
それがすべて愛する子供がやってきたことなのだ。それが信じられない。

アスターは手を握りしめた。
立ち去るレンディに声をかけることができなかった。

<END>