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◆赤〜温かき生の紅〜

赤将軍に昇進後、帰省したアスターは師へ報告に行った。
小柄だがしっかりした体つきをした壮年の師は笑みを浮かべて弟子を迎えた。
師が開いている武術道場に通っている子供達が帰っていった後、アスターは師と向かい合って座った。

「お前が赤将軍ねえ……」

久々に会った武術の師ロドリクはアスターの報告に苦笑気味に笑い、片手で顎を撫でた。

「建築士はどうする気だよ?」

それを言われると痛い。
兄と弟がいるため、継ぐ必要はないが、軍人でいたいわけでもないのだ。
アスターは『戻りたいのですが…』とため息混じりに答えた。
しかし現在のアスターは赤将軍として麾下400兵を抱える身だ。その中には新兵の頃から一緒の同僚に加え、ホーシャム、マドックらがいる。彼等はアスターの危機を助けてくれた同僚であり、彼等への恩を考えると、信頼を放って退役などできない。

「ま。赤になっちまったら簡単に辞めれはしねえよなぁ。いろいろとしがらみが出てくらぁ」

何やら物知り顔の師はそう言い、壁にかけてある布に包まれた長棒を手に取った。
ほらよと放り渡され、視線で許可を得て包みをとると、中から出てきたのは黒塗りの棒であった。シンプルで先は丸く、柄の両端にのみ、ささやかな彫り物が見える。かなり長いが、見た目より遙かに軽い棒にアスターは驚いた。

「師匠、これは?」
「ベッテという名の木がある。北の日照の少ない地に生えるその木は非常に成長が遅いが、身が引き締まり、鋼も通さねえ丈夫な幹になる。そいつで作った長棒だ。木ゆえに軽く、下手な武具より遙かに丈夫だ。そいつをつくるのに幾つも工具が駄目になった。大切に使えよ?」

小柄な師には不釣り合いなほど長いその棒は明らかに長身のアスターのために作られている武具だ。師は間違いなくアスターのために用意してくれたのだろう。

「ありがとうございます」

アスターは深く頭を下げた。

アスターが去った後、ロドリクは煙草に火をつけた。

「……最後の弟子が一番出来がいいようだな。煙草を吸いやがるのが難点だが。余計なところまで似やがって」

ぷかりと煙草を吹かし、ロドリクは苦笑した。

「昔の弟子はいまいち出来がよくねえ。…セルジュの奴、まだデーウスの元に戻ってねえのか。馬鹿共が。一体何をやってんだか…」