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◆白〜終わりの見えぬ道を歩むこと〜

ある昼下がりのことである。
休暇を取って実家に戻っていたアスターはカフェで女性と会っていた。
幼なじみでもあるその女性とアスターは徴兵前から付き合っていた。

「帰って来られなくなっただなんて、酷いわ!」
「俺だって帰りたかったよ」
「それでいつ戻れそうなの?」
「だから、わからねえって言ってんだろ。判れよ?」
「判らないわよ、バカッ!!」

スパーンと鋭い音が響き渡る。
思いきり平手打ちされたアスターは走り去っていく女性を見送り、ため息を吐いた。


++++++


カタリナと喧嘩した。
そう告げた時、家族は皆、苦笑顔であった。

「まぁ無理もない。ずっと待っていたのにいつになるか判らなくなったというんじゃ待つ気も失せるだろう」
「兄ちゃんが悪いと思う」
「しょうがないねえ。けどこれ以上カタリナを待たせるのも気の毒だしねえ」

家族は皆、カタリナに同情的であった。
自分が悪いという自覚があるため、アスターも反論せず、大人しく皆の言い分を聞いた。

「それで戦場で会ったという子供は見つかりそうかい?」
「それがあれ以来全然会えなくてなぁ。死んでなきゃいいんだが…」

単に配属先が遠くなって来れなくなった…という理由ならいいが、戦場でうっかり死んでいる可能性がないわけではないだろう。互いに軍に身を置く者同士。死は常に身近にあるのだ。

「会えたらちゃんと連れてくるんだよ。たっぷり美味しいものを食べさせてあげなきゃ。生肉好きの孤児だなんて、ろくなものを食べられなかったんだろうからねえ」

子供に同情的な母親に頷きつつ、せめて名を聞いておけば見つけやすかっただろうにとアスターは後悔していた。
何度問うても、名を教えてくれなかった謎の多い子供とはもう何ヶ月も会っていない。
どこかで寒い思いやひもじい思いをしてなければいいがと思う。
アスターの家は平民だが安定した収入があり、生活もそこそこ良い。子供一人ぐらい十分養えるのだ。アスターは暖かな実家で子供を可愛がってやりたいと思っている。

ずっと兵士だったアスターは軍幹部の顔を殆ど知らない。興味もない。
そのため、軍のトップに立つ将軍位の人々の容姿を知らぬままなのであった。