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◆創〜終わりを望む始まりの話〜(9)

最後の出陣になると思われた戦いは文字通り、接戦となった。

「あーっ、もう、きりがないよ!!」
「全くだ…」

小隊の前衛担当、アスターとシプリは文字通り、血を浴びる勢いで戦っていた。

「あんたはまだマシじゃないか!俺は血まみれなんだよ!」

それは武具とリーチの差である。アスターの長棒は血を出さない上、腕と棒の距離のおかげで血を浴びることはない。
一方、シプリの武具は普通の剣だ。当然ながら返り血を浴びやすい。

「んなこと言われてもよー?武具の差だって。なぁ、レナルド?」

アスターの問いにレナルドが無言で頷く。
二人の近距離にいるレナルドは弓矢担当だ。当然ながらアスター以上に血を浴びない。

「しっかし、厳しいな。はてさて、生きて帰れるか…」

疲れからアスターがぼやくと、やや後方にいたトマがキレた。

「何おっしゃられているんですか!皆さんが頑張ってくださらないと、坊ちゃまに危険が及ぶのですよ!!坊ちゃまだってこれほど頑張っておられるのですっ!!這ってでも生き延びる根性と覚悟をお見せ下さい!!」

エドワールはタイミングを見つつ、防御陣を張って、サポートしてくれている。
その隣で同じくサポート担当のトマに、剣を突きつけられそうな勢いで怒られ、アスターとシプリはやや引きつり気味に頷いた。

「あ、ああ。それもそうだな、悪かった」
「わ、わかってるよ!将来の為に生き延びるっての」
「…大丈夫、勝てる…レンディがいる。死霊が動いている」
「だな。青竜がいる限り、うちが負けることぁねえか。……何とか食い止めろ!!」
「「おう!!」」

アスターの声に周囲から声が上がった。
そうしてアスターたちは今回も何とか生き延びたのであった。


++++++


「は?今、何て言った?」

戦いの後、アスターらの元に訪れた赤将軍は思わぬ話を持っていた。

「ですから、レンディ様からのご命令により、第五中隊以下の兵は全員、一階級昇格となります」
「いや、一階級と言われても、俺ら、兵隊長だからよ…」
「一階級昇格ですので騎士ですね。レンディ様もご承知でございます。レンディ様より第五中隊の騎士には報奨金、兵には階級と金一封という形で恩賞がでます」
「騎士って……」
「騎士は軍属になりますので、騎士階級に上がられた方々は正規の軍人として登録させていただきます」

そのとき、ひゃっほう!という喜びの声が上がった。
振り返ると最年長の兵ホーシャムが大喜びしていた。

「よかったなー!じーさん!!」
「報われたじゃねーかっ!!」

老兵の思わぬ出世に周囲も大喜びだ。
確かにホーシャムはいいだろう。軍に骨を埋めると言っていたような老兵だ。
しかし…。

「いや、俺ら、もうすぐ、徴兵期間終了で…」
「ばかもの!!他の方ならともかくレンディ様からのご好意だぞ!!断ったら青竜ディンガに食われると思え!!このご好意は断ることは許されん!!心して受けよ!!」
「…ま、まじかよ……」

アスターが顔を引きつらせていると、背後でばたりと音がした。
振り返るとエドワールが倒れ、トマが慌てている。

「ぼ、ぼっちゃまっ!気をしっかりっ!!」
「お、俺の人生計画が…カリスマ被服師が…」
「………カリスマ狩人…」

同僚たちも迷惑顔だが当然だろう。退役を目の前にしてその道が閉ざされたのだ。
しかし青竜の使い手の命令であれば断れないというのも判る。レンディは軍で絶大なる力を持つ支配者なのだ。

(あー、マジかよー!?)

いずれにせよ、レンディの命令なら辞めることもできないだろう。
ふと頭に過ぎったのは夜に訪れる秘密の友人のことだった。
実家に帰る予定で誘っていたが、そうもいかなくなったようだ。

(謝らなきゃいけねえなぁ。それともあの子だけ親に頼むか?)

そんな算段をしつつ、思わぬ延長となった軍人生活に悩むアスターであった。

<END>