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◆迷闇の門(1)


ウィルフレドはガルバドス国の青将軍である。
褐色の髪と蒼い瞳を持つ彼は、やや冷たそうな外見を持つ人物で、将としては完全な印使いだ。
彼は同じく印使いであるリーチ黒将軍の側近として働いていた。彼に貰った印の力を強める指輪は今も愛用している。
リーチが重傷を負って軍を退職した後は、どの黒将軍にも付かず、フリーで働いている。
上官となる黒将軍につかない青将軍は仕事を得るのに苦労することになる。黒将軍たちは側近に優先して仕事を回すからだ。兵が減った場合の補充も側近を優先されるため、どうしても上官を持たないと不遇を受けることとなる。
リーチが引退した後、軍を継いだのは女将軍であるアニータだった。軍を継いだアニータはこのまま麾下へ入らないかと誘ってきた。
ウィルフレドはアニータが女性中心の軍を作りたがっていることを知っていたため、断った。
アニータの方も礼儀的に誘ったのだろう。しつこく誘ってくることはなかった。
しかし、不仲ではない。
ウィルフレドとアニータはリーチの麾下にいた頃、協力し合って戦っていた仲だった。

「アンタならどこへ行っても厚遇されるだろうね。何かあったら遠慮無く相談してちょうだい」

そう言ってアニータはあっさりとウィルフレドを送り出した。
そうしてウィルフレドはフリーの青将軍になった。
フリーになりはしてもどうしても他の黒将軍につきたくないというわけではないから、はぐれではない。はぐれと呼ばれる青将軍は総じて反抗的であり、彼ら自身に問題がある場合が多いのだ。ウィルフレドのように適度に仕事をして、招集されれば参加する青将軍ははぐれではない。
そうして、気ままに仕事をしていたウィルフレドはある日、レンディ黒将軍に呼び出された。

「一人、頼みたい相手がいてね」

レンディは青将軍の一人の面倒を見てやってほしいという。

「一応、カークにも頼んでいるんだけど彼も多忙でね。君は士官学校時代に同級生だったと聞いているので選んだ」
「かしこまりました」

さすがにレンディからの依頼は断れない。断ったら死を意味するからだ。
そのため、素直に依頼を受けたウィルフレドは付け加えられた言葉に内心唸った。

「ちょっと気が狂っているけどね。死なせないように頼むよ」

気が狂っているという青将軍の世話。
何とも難儀な依頼である。レンディからの仕事じゃなければ速攻で断っているところだ。
おまけに同じ仕事を依頼されたという人物はいろんな逸話で有名なカークだ。

(アニータの麾下に入っておけばよかった!)

今回ほど庇護してくれる上官が欲しいと思ったことはない。
深く後悔するウィルフレドであった。