それから約10日後のことである。
己の執務室で、アスターは唖然として卓上を見つめた。
そこには傭兵団から帰ってきたレナルドが置いた土産の品がある。質の良い酒と小袋である。
酒は判る。傭兵団から心からの礼だと言うのでありがたく頂いた。後で力を貸してくれたレンディと飲もうと思っている。
だが問題は小袋の方だった。なんと中身が宝石だったのだ。小さくとも質の良い宝石が袋詰めになった巾着袋。それが一つではない二つだ。
「おいおい……なんだこりゃ…」
「ジョルジュとカーディからアンタに。忘れてて届けに行ったら、アスターに渡してくれって言われた」
「いやいや、届けにとか、それが俺にとかワケわかんねーし!何で俺になんだよ」
「……お礼?」
たぶん、と付け加えられて、アスターは頭を抱えた。
確かに礼なのかもしれない。しかしアスターにしてみれば、戦場で拾った部下をノースに紹介したにすぎない。たったそれだけのことで袋詰めの宝石を貰ったのでは、ぼったくりもいいところだ。
しかも、持ってきたレナルドも『お礼?』と言って首をかしげているのだ。そんな渡される理由も明確じゃない宝石を受け取っていいはずがない。
「ジョルジュとカーディに返品してくれ。こんなに高価なもん、もらえねーよ」
礼なら傭兵団と同じように酒ぐらいがちょうどいい、と言うと、レナルドは納得したのか頷いた。
「俺もそう思う」
「だよなー!…今夜あたり、仕事が終わってから一緒に呑みに行かないか?」
そう誘うと、レナルドは少し眉を寄せた。
いつも無表情のレナルドにしては珍しい表情に少し驚いていると、レナルドは小さくため息を吐いた。
「外泊禁止。仕事終わったらすぐ帰宅しろと怒られた」
「それってギルフォード青将軍にか?あーあ……」
何ヶ月もの不在はギルフォードをよほど怒らせたらしい。
放浪癖のあるレナルドには厳しい罰だろうが、さすがのアスターも今度ばかりは味方になることはできない。アスターもずいぶん振り回されたからだ。
「そりゃお前が悪い。しばらく大人しくしておかないと捨てられるぞ」
「うん」
レナルドも判っているようだ。神妙そうな顔をしている。
「けど、酒を飲めないのはつまんねーな。今度ギルフォード青将軍に一緒に飲もうって伝えてくれよ。そしたら問題ねえだろ?」
うん、とレナルドは嬉しそうに頷いた。
(あー、けどそうしたらシプリを呼びづらいなー。でもいいかげん慣れてもらわねえとなぁ…)
いつまでも不仲ではいられないのだ。
「誘ってくる」
「今夜かよ!」
慌ただしいなと思いつつも、まだシプリは帰国していない。時期的にはいいかもしれない。
窓から出て行く友人を見送り、まぁいいかと苦笑するアスターであった。
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