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◆月〜造られし感情の行方〜(1)


15歳の時のことだ。ノースは祖父を失った。
父はすでに他界していた。ノースは祖父母に育てられたようなものだった。
ノースに残されたのは家と多少の金と、そして弟妹であった。
全くお金がないわけではないので、とりあえずは暮らしていけるだろう。しかし莫大な金というわけではないため、働かねばいずれは尽きてしまう。ノースは長男だ。家族を守る必要があり、その責任を投げ出す気もなかった。
困ったノースが相談した相手は祖父の友人だった。そしてその友人は軍の関係者であった。

「軍人になる覚悟はあるかい?」

祖父の友人はそう問うた。

「彼はとてもよき軍師であった。君にも同じ才能があると彼は誇らしげに話していた。君に覚悟があるのであれば私は軍に君を紹介しようと思う。それぐらいの伝手はあるのでね」

当然ながら戦場での命の保証はできないが、と祖父の友人は言った。
ノースは迷った。
自分は戦えない。武器を持ったこともない。いきなり戦場に出てやっていけるのかと言われると全く自信がないというのが本音だ。
しかし、祖父の友人は、君が無理なら君の弟でもいいよ、と言った。
勧誘が弟に向くとは聞き捨てならない台詞だ。

「私は戦えません。軍師として採用してもらえるのでしょうか?」

そうノースが問うと祖父の友人は笑んで頷いた。

「もちろんだ。君のことを話に聞いていて、是非招きたいと言っている将がいるのだよ」

若いが大変優秀な人物でね、将来が楽しみなんだよ、と祖父の友人は言った。
その将軍の一人が青竜の使い手と呼ばれる少年であり、祖父からノースのことを話に聞いていて、勧誘しにいこうと思っていたのだとノースが知るのはわずか二日後のことであった。