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◆25回目の見合い話


検索回廊【JIN】様の「投稿小説BL」のページに投稿したミニ話です。サイトにも掲載してほしいというリクエストを頂きましたのでアップ致します)


ベルクートは非常に緊張していた。
ベルクートは大国ウェリスタの国内最大の港町の頭領家に生まれた。次期後継者である。
海の荒くれ者を束ね、海千山千の商人達の相手をしつつ、街を守っていかねばならない立場にあるベルクートは今のところ、問題なくそれらの仕事をこなしていた。
幸い、街の人々にも慕われ、よき後継者としての道を歩んでいる。
褐色の髪に青い瞳を持つベルクートは身長180cm、男として体格もよく、見目もいいため、よくモテる。
そんな彼だが、一つ欠点があった。
仕事以外の場では非常に人見知りが激しく、殆ど喋れなくなるのである。
おかげで破談となった縁談が20以上。この数には周囲も呆れ、殆ど縁談が来なくなってしまった。人見知りが激しいため、当然自然な恋など望めるはずもない。
しかし家柄が家柄である。婚姻しないわけにはいかない。
そうして見つかった新たな縁談がウェリスタ国近衛副将軍のシードであった。

副将軍だというのでどんな筋肉隆々の大男かと思っていた。
しかし実際に会ってみるとベルクートより若干背が低く、痩せていた。これで軍人だというのが少々不思議なほどだ。しかし腰の剣はよく使い込まれている様子なのが伺え、握った手は剣によるタコができていた。
(綺麗な髪だな)
実際のところ、相手は容姿に優れているわけではなかった。少々目つきが悪いが、職業軍人ならば判る気がする。そしてあまり目立たない印象であった。集団の中では埋もれてしまいそうだと思う。しかし珍しい藍色の髪とまっすぐな青い眼差しが目を引いた。

(何だか気になる…)

実際、何がどう惹かれるというわけではない。その地位以外、抜き出たところは相手には感じられなかった。
しかし、緊張してろくに喋れないベルクート相手に不快そうな様子も見せず、ごく一般的なことを話しかけてきてくれる。
時折、ベルクートがかろうじて相づちを打つと、小さく笑んでくれた。
何しろ20回以上の縁談が破談したベルクートだ。ろくな会話ができるはずがない。出来ていたら、破談などするはずがないのだ。何しろ、見目良し、仕事よし、家柄よしと三拍子揃った男なのだから。
これで人見知りさえなかったらとはさんざん言われてきたことだ。仕事では呆れるぐらい饒舌になれるのに、何故かプライベートでは舌が固まったように動かないのだから仕方ない。
何か喋らねばと必死に思うが、頭は真っ白になり、何も思い浮かばない。
こうしてすでに一時間以上。呆れているであろう相手も会話のネタが尽きたのか静かだ。無理もない。相手から話しかけられた話題にベルクートはかろうじて頷く程度の相づちしかできなかったのだ。話題が広がらないため、会話が続くはずもない。
内心焦るベルクートに対し、相手は非常に落ち着いていた。
しかしいい加減、なんとかせねば今までの見合い相手同様、怒って席を立って去られてしまうだろう。
何とか、どうにか、と思っていたとき、ノック音が響き、初老の男が入ってきた。ベルクートの仕事上の部下であるゼムだ。家の執事でもある。
ゼムの用件は急ぎの仕事であった。商人達が貿易に関することで融通を利かせて欲しいと申し込みをしてきたのだという。
海路で圧力をかけてこられたが…というゼムにベルクートは目を細めた。

「不要。妥協の必要はない、押し切れ。ゲゼムに遠慮する必要はない。商工会がなんと言おうとギランガの海はミスティアの海。奴らの好きにはさせん」

ギランガの海を守るミスティア家の意地がある。どんな手にでられようと屈することはない。そう言い切り、ベルクートは対抗手段を脳裏で練り始めた。頷いて執事が部屋をでていく。
ふと、視界にびっくりしている見合い相手が入ってきた。仕事ということで頭が仕事モードに入っていたが、見合い中だったのだ。

(しまった!!)

放置して仕事に没頭してしまっていた。慌ててベルクートは相手に向き直った。

「あ、あの、シード、殿……」
「な、なんだ?」

初めてベルクートから話しかけたせいだろう。相手も緊張してる様子が伺えた。

「お、俺は、その、仕事には強いんですが……」
「あ、ああ…」
「け、けして、貴方の事を嫌っていると、いうわけではなく…慣れるまで時間がかかりまして……いえ、本番には強いんですが…」
ともかくわざとではないと誤解を解かねばならない。ベルクートは必死であった。
「そ、そうかよ…」

相手もベルクートの緊張につられているのか、ぎくしゃくした様子が伺える。

「す、末永くお願い致します」

かろうじてそう告げて頭を下げると思わぬ返事が返ってきた。

「お、おう…こちらこそ」

OKがもらえた!!

「あ、ありがとうございますっ!!」

ベルクートは歓喜して更に頭を下げた。相手がつられて返事をしてしまったことに気づく余裕などあるはずもなかった。
こうして25回目にして何とか見合いに成功したのである。

<<END>>