文字サイズ

◆ラブレター(一万ヒット記念小話)


※性的描写が含まれていますので、苦手な方はご遠慮ください。


きっかけはちょっとしたハプニングだった。
フェルナンと二人で出かけた帰りに酷い夕立に遭ってしまったのだ。

近衛第一軍の将軍用私室へ戻ると、当然といえば当然ながらフェルナンは先に入ると言って入浴してしまった。スティールは一応大人しく待っていようとした。そのとき、卓上に置かれた手紙に気づいた。すでに開封済みの数通は無造作に置かれている。見るつもりはなかったが、かすめた視線に愛の言葉が入ってきた。

「……?」

それは見事にラブレターを言われる類のものだった。
内容や字を見る限り、女性ではなく男からフェルナンにあてたものであるらしい。
しかし見るだけ見て、放置という様子をみるとフェルナンは相手にしていないようだ。確認だけしたのだろう。

(さすがフェルナン、もてるんだなぁ…)

そんなことをぼんやり思っていると、同じく濡れた小竜がぼやいた。

「待ちくたびれた。先に入浴してくる。ついでに鍵も開けてやろう」

どうやってと問う暇もなく、小竜は窓から出ていった。

「あ…浴室の窓か…」

小さな窓だが小竜なら入れるだろう。しかもここは二階で窓の外は木々に覆われている。よほど根性のあるものじゃないと覗きはあり得ない。フェルナンだって考えもしていないだろう。
すぐに開くかと思っていた浴室の鍵はなかなか開かなかった。

(あれ…?俺を開けて入れてくれるんじゃなかったのかな?ドゥルーガのやつ…)

寒いし濡れたままだ。風邪を引きそうだと不安になるころ、ようやくカチリという小さな音が響いた。


+++


ドゥルーガが何故すぐに鍵を開けなかったかは扉を開けてすぐに判明することになった。

「ス…ティール…ッ、助け…」

金の猫足を持つ白のバスタブに身を沈めたフェルナンは腕を伸ばしてかろうじて鍵を開けたらしい。全身が濡れ、白い肌は上気し、目は濡れているだけではない艶がハッキリ見える。

(うわ…、壮絶っ)

フェルナンは入ってきたスティールに濡れた腕を力なく伸ばした。

「早く…っ、こいつを何とかしてくれ…っ」

お前の武具だろう?と言われ、スティールはバスタブの中に視線を落とし、絶句した。

「ドゥルーガ…お前……」

小竜は己の入浴を優先させたらしい。そのまま浴槽に入ったのだろう。問題はただ入浴するだけですませなかったことであり。
入浴ついでに相方への応援をする気になったらしい小竜は体をスライム化させてフェルナンに悪戯したらしい。
たまらなかったのはフェルナンだろう。止めようにもゼリー物体と化した小竜は剥がれない。取り除こうにも液体のように指を抜け落ちるだけだ。フェルナンはそのまま体中を愛撫されたらしく、かろうじて手を伸ばして鍵を開けた頃には殆ど動けぬ状態であった。

「…すみません、はがします…」

剥がれるかどうかは判らないがと思いつつ、頷いたフェルナンの体へ手を伸ばす。小竜はちゃんとフェルナンの性感帯を覚えていたらしく、乳首や脇腹、あげくに股間にまでしっかりと張り付いていた。

「ぅあっ…ふ…っ…」

スティールが触れただけでフェルナンは甘く艶のある声を上げた。スティールが入るまでに自分で何とかしようと思ったのだろう。すっかり昂ぶったペニスは今にも達きそうだ。

(この人、相変わらず声が凄くいい…)

浴室ということでよく響いているということもあるだろう。しかし甘く艶のある声は官能に溶けている今、壮絶に色っぽく腰に直撃しそうな甘さが含まれている。

「…っ、あぁっ…スティール…ッ」

ギュッと痛いほどの力で肩を掴まれ、スティールは顔をしかめた。
しかしフェルナンは必死なのか荒く息を吐いていて、気づいていない。

「フェルナン、もう少し我慢してくださいね」

その気になれば一瞬で小竜の姿に戻れるであろうドゥルーガは未だスライムのままだ。どうやらフェルナンの中にも入ってしまっているらしいということも判った。
ドゥルーガと湯のおかげでフェルナンの内部に指を挿れても抵抗は少なかった。小さく体を震わせたフェルナンは軽く唇を噛んで耐えている。中を掻き出すように指を動かしていくとビクビクとフェルナンが体を震わせた。

「…あ、ああっ…」
(大丈夫そうだな)

指を二本に増やして内部を更に動かしていく。熱く絡みつく襞をかき分けるように引っ掻いていくとフェルナンは耐えきれぬように小さく頭を振った。掴まれた肩がいいかげん痛かったのでフェルナンの耳朶を軽く甘噛みし、こちらを向くように囁く。

「フェルナン……フェルナン」
「……ぁっ…な、んだ…?」
「まだ我慢できます?」

我ながら意地悪い問いだと思いつつ聞くと、フェルナンの視線が一瞬揺らいだ。とてもプライド高く我慢強い彼だ。出来ないと言いたくはないのだろう。しかし限界だという自覚はあるのか、顔を隠すようにうつむき、小さく呟かれる。

「何です?聞こえません」

問い返すと悔しげに睨まれる。しかし官能に耐えた表情で睨まれても全く怖くはない。

「……無理…だ…」

返された言葉は小さく熱が籠もっていた。

「じゃ一度達っておきましょうか。バスタブの縁を持ってこちらに背を向けてください」

フェルナンは動かない。どうかしたのかと思い、顔を覗き込もうとすると嫌がるように背けられた。恥ずかしいのか顔を見せようとしない。

「……スティール…」
「はい?」
「……れて…くれ…」
「はい?」

聞き取れなくて問い返すとフェルナンは俯いたまま耳まで真っ赤な顔で告げた。

「…指、じゃ…嫌だ……だから…っ…」

スティールは意味に気づいて浴槽を見た。
本来一人用だ。しかし軍人向けにやや大きめに作られているバスタブなので入り方次第では二人でも入れるだろう。

「判りました」

失礼しますと告げてフェルナンの背中側からバスタブへ入る。背側から抱きかかえるようにして腕を前に回して乳首や脇腹を撫で回していく。ふれあった肌からダイレクトに体温や体の感触が伝わっていく。
それは相手も同様らしい。スティールの手の動きをフェルナンは嫌がるように身をよじっているが、狭い浴槽だ。ハッキリ言って逃れようがない。

「…っ、スティールっ…」

止せと言いたいのだろう。しかしこの状態で止める気はないスティールである。

「あっ…よせ、もうっ……だ、だめだっ」

スティールが乳首を二、三回捏ねるといいかげん限界だったのだろう。フェルナンは激しく体を震わせた。

「あっ、あああああっ」
「…胸だけで達ったんですか?」
「そ、のまえにっ……いろいろ触っただろうがっ……」
「あぁそうですね、胸はとどめって感じですか?」

こことか触りましたもんね、と股間を揉んでいくとフェルナンは再び体を震わせた。

「…ふっざけるなっ………あっ、もう、いや、だっ」
「まだ出るでしょう?」

軍人だ。フェルナンは腕のいい軍人である分、体力もある。少なくともスティールよりはるかに基礎体力はあるだろう。まだまだ大丈夫だろうとスティールは再び勃ち上がっている竿を擦りあげていった。湯の中なので互いの動きで水面が濡れた音を立てていく。

「あっ……あああっ……やめ、スティールッ」

嫌がるように身じろぎする動きはスティールをあおり立てるばかりだ。何より声の良さがスティールの気持ちを煽り立てていた。

「やぁっ……中…っ……中…にっ……スティール、中っ…」

中は今弄っていない。ドゥルーガか、とスティールは気づいた。ドゥルーガが中まで悪戯しているらしい。

「ドゥルーガかな?」
「あっ、あああっ……や、もうっ……」

再び達しそうになっているフェルナンはすっかり涙目だ。短時間で立て続けに追いつめられ、前後からの刺激に瞬く間もなかった。

「っ……っスティール…っ……あ、ああーっ…」

そのままグッタリとスティールに背を預けるように崩れ落ちたフェルナンはすぐにピクピクと体を震わせた。

「ぁあっ……いやだっ…」

スティールは触れていない。しかしフェルナンは達したばかりの体を小刻みに震わせている。

「スティールっ…」
「はい?」
「スティール、頼むっ…中っ…もう、いや、だっ」

フェルナンの声は懇願と涙混じりだった。
とても誇り高いフェルナンは今までそんな顔を見せたことはない。驚くスティールに拒絶されたと思ったのか、フェルナンは頼む、と涙声で重ねて繰り返した。

「頼むっ…スティール、中の取ってくれっ……っ…あっ…ああっ……」

背後にいるスティールの表情が見えないせいだろう。フェルナンはやや不安げに頼むと繰り返しながらビクビクと足をつっぱったり曲げたりを繰り返す。

「頼む、気が、狂うっ……スティールッ」

しきりに首を振り、身悶えるフェルナンが気の毒になり、スティールは頷いた。

「判りました…ドゥルーガ。いいかげんにしておけ」

一緒に流してしまうぞと告げて浴槽の湯を抜く。
当然ながら一緒に流されてしまう小竜ではなく、一瞬にして湯の中から元通りの姿で現れた。
プルルルンと水滴をはねとばすと機嫌よさそうに窓から出ていく。用が済んだら満足といいたげな様子だ。
ため息混じりにその姿を見送り、スティールは目の前で荒く息を吐く相手を見下ろした。フェルナンは達したばかりの体を小竜に煽られるだけ煽られたため、体は完全に昂ぶったままだ。

「歩けます?」
「………お前は…欲しくない、のか…?」

そういえばこの人、中に出されるのが好きだったな、とスティールは気づいた。
過去、中に出さずにヤって怒られたことは衝撃の記憶だった。気を遣ったつもりがフェルナン相手には逆効果だったのだ。出さないならヤるなとまで言われ、酷く驚いたのを覚えている。

「もちろん、欲しいです」

自分ばかりが欲しているわけではないと判って安堵したのかフェルナンの体から力が抜けていく。素直じゃない人だが付き合いが長くなるに連れ、少しずつ相手の事が判っていく。
とても難しい人だけれど少しずつ分かり合えていく関係もいいなと思いつつ、スティールは背後から己の昂ぶりを押しつけた。

「入れますよ?」
スティールは耳元で低く囁いた。フェルナンの目が期待に小さく揺れるのを見ながらスティールはとろとろにとろけた中へ押し入っていった。


+++


結局、そのまま立て続けに二度フェルナンの中で達し、フェルナンは更に後始末の最中に一度達き、すっかり足腰立たぬ状態になった。

「………」

濡れた亜麻色の髪を片手で掻き上げ、フェルナンは不機嫌だ。上気した顔は目がまだ潤んでいたり、目尻が赤かったりと何とも言えない艶っぽさだ。
誰にも見せたくないなとスティールが思っていると、歩けぬとは言えないのだろう。無言で睨まれる。そのプライドの高さに苦笑しつつ、スティールは腕を伸ばした。濡れた腕が素直に応じて伸ばされてくる。抱き上げられなければ歩けぬ自覚はあるらしい。

寝台まで運ぶ途中に卓上の手紙が目に入った。
寝台に相手を下ろしつつ、何気なく問うとフェルナンは不機嫌そうに眉を寄せた。

「どうするかだと?断る以外に何があるというつもりだい?」

応じろとでもいうつもりかと睨まれ、スティールは首を横に振った。

「いえ、そういうつもりじゃありませんが」

「手紙をくれた者達は男でね。私の美貌を盛大に讃えてくれるといういつものパターンの手紙だったよ」
「そうですか…」

美貌を讃えられるのがいつものパターンなのか。
確かにフェルナンは美人だ。艶のある亜麻色の髪も澄んだ宝石のような水色の瞳も彼の美貌を引き立てている。男だとハッキリ判るタイプの美貌の主である上、地位も権力もあるとなったらモテない方がおかしいだろう。
しかし当人は迷惑らしく、盛大に顔をしかめている。

「誰かに抱かれるなど運命の相手だけで十分だよ。気持ち悪い」

そこまで言うかと思いつつ、スティールは複雑な気持ちになった。この運命の相手は普段盛大に大きな猫をかぶっているらしく、スティールの前では遠慮無く口が悪い。

「でも俺には抱かれるの好きでしょう?中に出さないと怒るし…」

思わずそう反論するとフェルナンに盛大に睨まれた。

「だから『運命の相手』だけで十分だと言っているだろう」

抱かれるのが好きだと言ってはもらえなかったが同じ意味で答えてもらうことはできた。ついでに自分だけだとも。
素直じゃない相手は『鈍いヤツは好きじゃないんだがね?』と睨んでくる。年上で酷く扱いづらい相手。しかしどうしようもなく惹き付けられる相手だ。
正直、性格的な相性は悪いと思う。会話は喧嘩になる。考え方もとことん違う。相手も相性の悪さは感じているだろう。
けれどお互いにどうしても惹き付けられるのは確かで、顔を合わせないと会いたくなるし、会ってしまえば触れ合いたくなってしまうのだ。
そして体の相性だけは最高で。

(風と水で嵐とはよく言ったものだなぁ…)

相反する印の運命の持ち主同士は盛大に反発しあいながら惹き付けられるというが、正にその通りだと実感しつつ、スティールは小さく引っ張られる手元に視線を落とした。
性行為で疲れたのか、フェルナンは眠りに落ちようとしている。無意識にスティールの手を引っ張りながら眠る様子にスティールは小さく笑みをこぼした。
起きているときはとことん可愛くない性格の相手だが、眠っているときだけは無意識に甘えてくれる。そんな小さな仕草がスティールは好きだ。
フェルナンが起きたら彼の前でラブレターは燃やしてやろう。彼は一体どういう反応を見せてくれるだろうか。そう思いつつ、スティールはフェルナンを抱き込むように隣へ潜り込んだ。


<END>