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◆邂逅(コーザ&黒竜トリオ)

(同業者に会いました)

セイの祖国へ向かう旅の途中である。
セイの祖国は西国の為、ガルバドス国を横切らなければならない。
コーザたちはそのガルバドス国で食事のために食堂へ入った。
お世辞にも綺麗とは言えないその食堂は雑然とした店内にテーブルや椅子がところせましと並んでいる。客層は平均よりやや下の平民が中心のようだ。
しかし傭兵であるセイたちは食べられればいいタイプだ。特に気にすることなく空いている席に座り、隣のテーブルにいた三人組と目を合わせた。

「あれ?」
「ん?」
「おー、坊主じゃねえか。久しぶりだな。こんなところで何してんだ?」

どうやらセイたちの知人がいたらしい。ガルツが嬉しげに話しかけた。
くしゃくしゃに頭を撫でられた青年は二十代前半のようにみえる若い青年であった。坊主じゃないッス!と抗議しているがじゃれ合っているようにしかみえない。
ガルツには己の子のような世代の青年が可愛いらしい。ああでもない、こうでもないと話しかけている。

「セイ、友人か?」
「友人というより知り合いだな。何度か戦場で一緒になった。ああ見えても恐ろしく強い三人組だ。幸いなことに必ずウェリスタ側に雇われてくれていたんで敵対することはなかったんだがな…なんでガルバドス側に来ているんだか」

セイの呟きが聞こえたのだろう。隣のテーブルに座る一番大柄な青年が口を開いた。穏やかな雰囲気の落ち着いた青年だ。

「暇だったんで出稼ぎに。ホーシャム部隊に雇われているんだ」
「橋造りをやっている」
「大変だったんスよ、じーさんが腰をグキッとやっちゃって、運ばれていかれたんスから!」

青年たちの話を聞いて、コーザは『土木建築関係か』と納得した。
軍は道路整備や砦建設などの公共事業を請け負うことがある。そういった仕事には多くの人が雇われるので雇われやすいのだ。
仕事内容も戦場じゃないため、気楽に稼ぐことができる。

「ホーシャム部隊っつーとアスター将軍麾下の部隊か。なるほどな」
「軍も定年制にすべきだな。腰の悪いじいさんを戦場に出すべきじゃねえ」
「ですよねー!」
「倒れたご老人って軍人の方だったのか?」

てっきり雇われた人物かと思っていたが違っていたらしい。コーザは驚いた。
先ほどの大柄な人物が頷く。

「ホーシャム将軍その人だ」
「え?幾つなんだ?」
「さぁ…70はとうに過ぎていらっしゃると思うんだが。当人は生涯現役を目指してらっしゃるらしい」

すばらしいだろう?と大柄な青年。
そういう問題じゃねえだろ、とその隣の痩せた藍色の髪の青年が突っ込む。
そしてこちらを振り向いた相手と目があった。

「あんたこそ何でここにいる?言えない事情なら聞かねえが」

藍色の髪の青年は、コーザの素性を知っているらしい。
もしかすると戦場で会ったことがあるんだろうかとコーザは少し驚いた。

「引退してな。一緒に彼の故郷に行くところだ」

セイを指すと三人は納得したような顔になった。どうやら三人ともコーザのことを知っていたらしい。

「もったいないッスねー。でも傭兵も楽しくて良いことたくさんあるッスよ。意外とイケるものッス」

一番若く見える黒髪の青年にそう言われ、コーザは笑って頷いた。

「あぁ。俺もそう思う」

コーザの返答は三人に好印象を与えたらしい。三人は揃って笑顔になった。

「まぁ人生、何が起こるか分からないものだが、どんなときも意外と何とかなるもんだ」

藍色の髪の青年がしみじみ言うと一番大柄な青年は意外そうな顔になった。

「お前からそういう台詞を聞くとは思わなかった。いつも『行き当たりばったりじゃいつか死ぬぞ』と言っているのに」
「そりゃお前が無計画だからだ!」
「傭兵なんてそんなものッスよ!ねえ、オルス先輩」
「お前らは度が過ぎているんだ」

その時、遠くから鐘の音が聞こえてきた。

「そろそろ休み時間も終わりだ。現場に戻るぞ、オルス、アーノルド」

一番しっかり者らしい藍色の髪の青年がそう促すと大柄な青年と黒髪の青年も立ち上がった。

「そうだな」
「はーいっ」

じゃあ元気で、とコーザたちと簡単な言葉を交わし、青年たちは出ていった。
彼等が食堂を出ると同時に屋根の上から黒い鳥のようなものが飛び降り、一番大柄な青年の肩に留まるのがちらりと見えた。その姿がかつての部下の姿と被って見えた。

(ドゥルーガか?まさかな。紫竜がスティールの元から離れるわけがない。似た動物を飼っているのか?)

そんなことを思い、青年達が出ていった扉をコーザが凝視しているとセイが意味ありげに笑った。

「面白い連中だろ?」
「あぁ……」
「今の連中が『黒き盾』だ」
「あの最強の傭兵部隊なのか!?」

さすがに驚いて問い返すとそうだとセイとガルツは笑った。

「だが若かったぞ!?本当に『黒き盾』なら年齢が合わなくないか!?」
「そうだろ。連中は謎が多い。傭兵でありながら、その知識は並の傭兵じゃねえ。西のガルバドスや北のホールドスのことをとても詳しく知っている。三大貴族に厚遇を約束されながら、断り続け、かと思えば小さな依頼をあっさり受けたりする。大きな戦いがあってもディンガルに残っていたり、かと思えばいきなりディンガルを離れたり。だが基本的にディンガル地方にこだわってるようだからディンガルの守護聖獣と何らかの関係があるんじゃないかって勘ぐる奴等までいるぐらいだ。実際、あのガルダンディーアをたった三人で操れるらしいから、全くの無関係じゃないようだ」
「ガルダンディーアはディンガル騎士にしか操れないだろ!?」
「そうだ。だが連中はガルダンディーアに認められているんだ」
「確かに謎の多い連中だな」
「まさか敵国にまで出稼ぎに来ているとは思わなかった。あれだけ被害を与えた国で働くとは本当に読めねえ奴等だ」
「稼ごうと思ったら幾らでも稼げるだろうにな」
「まぁ敵対さえしなきゃ、連中が何してようがかまわねえがよ」

そう結論づける二人に頷き返しながら、コーザは運ばれてきたシチューに口をつけた。


++++++


一方、噂の三人組はのんびりと川沿いの道を歩いていた。

「今の方、スティール将軍の元上司の方でしょ?」
「だな。軍を辞めたのか。惜しいな。いい腕してたのに」
「ですよねー」

そんなことを話しながら川幅のある川沿いの道を歩いていると、橋造りに使用する石材が積まれた工事現場に多くの人影が見えた。

「さぁまた頑張るぞい!」
「じーさん、やめとけって〜」
「またグキッとやるぞ!」

わいわいと賑やかだ。
どうやらまたホーシャム将軍が戻ってきたらしい。腰を痛めたというのに実に元気な老人だ。

「誰かマドック将軍かアスター将軍をお呼びしてこい」
「じーさん、戦場じゃなくて工事現場で死にたかねえだろ?ヤバイって」
「ワシは大丈夫じゃっ!」

そんな会話を遠目に見つつ、オルスがアーノルドの背を軽く叩いた。

「アーノルド、行ってこい」
「え?はーいっ………じーちゃん、剣の勝負!!」
「おお?ワシに挑むとは100年早いわ!!……イタタタタ!!」
「はい、じーちゃん、棄権―。タンカ、タンカー」
「まてい、若者!まだ勝負は決まってはおらんぞ!……イタタタ」
「ご老人、体は労った方がいいぞ、クセになる。オルス、背負ってやれ」
「ん?判った」
「くぅ、無念じゃ…」


<END>

そんなこんなで出稼ぎ中。